【連載】ブルプリ/Stage14『いつか神の巫女に』

  • blueprism14 2019/10/18 23:00

     それは何十年も前のことだとリノは言った。
     ある時、この国で第一子として生を受けた赤ん坊は、男と女、両方の性質を持っていた。
     『リノエリア』と名付けられたその子供は、生まれつき魔力も高く、レベル3までの魔術を使いこなした。レベル3は魔法使いの魔法の上限レベルだから、リノエリアの魔術適正がどれだけ高かったかは想像に難くない。
     リノエリアは成長すると、戦に利用されるようになった。世の中に魔法使いがまだおらず、魔術を使える人間がごくごく限られていた時代で、リノエリアは兵器として有能だったのだ。
     やがて、自らの力を拒み、精神を病んだリノエリアは、アゼルマイン城内にある『蒼の洞窟』という場所で自害した。何人もの騎士を巻き添えにして。
     この話にはまだまだ続きがある。
     リノエリアは生前、子を一人なしていた。国がリノエリアの力を受け継がせるための苦し紛れではあったが、その策は成功だったようで、生まれた赤子は『リノエリア』そのものだった。初代リノエリアには、その子を抱くことは叶わなかった。
     赤子に名前はつけられなかった。国にとって、赤子は『リノエリア』以外の何者でもなく、また、それ以外のことなどどうでもよかった。二代目に与えられたのは、国が開発した基礎魔力向上のための食事と、リノエリアが遺した膨大な量の魔術書、そして、城内に攻め込まれた時に敵を効率よく殲滅させるため、通用門にほど近い位置に建てた御所。それが、二代目にとっての全て。そんな中でも、二代目は心優しく成長した。
     時代は変わっていた。魔法使いという存在が各地で確認され始め、人は魔獣に対抗する手段を得た。そして、リノエリアに対抗する手段も。
     エジャールとの戦争をより有利に進めるため、アゼルマインが手を出したのは、二代目の精神改造だった。優しい二代目を、非情な人物に作り変える。
     それは失敗に終わった。二代目の精神は瓦解し、全てを敵とみなし、味方さえも攻撃し始めたのだ。国は対策部隊を作り、大量の兵士で抑え込んだ二代目を爆破することに成功した。
     二代目は生前、望んで子供を授かっていた。子供もまた『リノエリア』であったが、二代目は精一杯の愛情を与え、子供を育てた。
     三代目は母が国に葬られたのを見ていた。聡明な三代目はいつか母の仇を取るために、味のない食事も、楽しくない魔術の勉強も、危険な位置にある御所も受け入れた。いつか、いつか。母を狂わせ、亡き者にし、それでも平然として人の営みを続けていられるあいつらに、いつか。
     成長した三代目は、どの『リノエリア』よりも魔術に長けていた。三代目の得意とする魔術は生体魔術で、三代目は人知れず、自分の身体に魔術をかけた。
     それは、『リノエリア』が生まれる限り、その子供や子孫のリノエリアは魔力が膨れ上がっていく呪いだった。
     私がやらなくとも、どのリノエリアかが、この国を滅ぼしてくれると信じてる。
     そうして三代目も子を授かり……クーデターを起こして、母と同じ末路を辿った。
     四代目、五代目、と『リノエリア』は続いていった。どうやら初代のリノエリアも、自らの家系に『リノエリアが生まれる』呪いをかけていたようだった。だが、国にとっては好都合だった。何もせずとも強力な『兵器』が生まれてくれるのだ。教育さえ間違わなければ、これだけ頼もしいことはない!
     三代目の教訓を生かして、国は世継ぎを生んだ『リノエリア』を、神に捧げることとした。神に捧げるなんて、ていのいいことを謳ってはいるが、要するに反抗させないための『処分』だ。
     その後の『リノエリア』たちは、みなこう聞かされて育っている。
    『お前は神の巫女となるんだよ』
     それはなんと綺麗で残酷なのだろう。

     **********

    「私は、初代から数えて十代目の『リノエリア』になります」
     それはつまり、リノは生まれた時から殺されるのが決定しているということだ。
     アルトが眉をひそめた。
    「……二代目以降と同じように、キミも名前がないの?」
     アルフレッドが訊く。名前というのは、親が一番に子供にしてくれる『祝福』だと、アルフレッドは思っていた。自分が生まれた時に、あの男ですら、自分に名をつけてくれたのだ。それをしない親などいないと思っていた。
    「父と母がつけてくれた名前はありません」
     双子の顔が同じように歪む。
     それを見て、リノは「ああでも」と訂正した。
    「私には義理の母がおりました。ミカルドの母です。彼女は私のことも愛してくださり、私が3つの時に通り名を与えてくださいました。『サリュレイト』。アゼルマインで祝福の時に使う花束のことです。だから、私には名前があると言っていいのかもしれませんね」
     私は、義母にいろいろなことを教えて頂きました。
     リノは夢見るように言う。
    「かつての『リノエリア』たちが教えてもらえなかったことを、たくさん。でも、だからいけないんでしょうね。私は、生きたいと願ってしまった。死ぬのが、とてつもなく怖いんです」
    「死ぬのが怖いのは当たり前でしょ」
     アルフレッドの言葉に、リノは寂しそうに笑う。
    「『リノエリア』が死ぬのを怖がってどうしますか。それに……」
     リノの顔が曇る。その瞳は、後悔の色をしていた。
    「私だって、数えきれないほど人を殺してきたんですよ。それも、あなた方の国の人々を」
     双子の生まれるちょっと前まで、この国とエジャールは戦争をしていた。
     リノの年齢が25歳。双子の年齢が17歳。
     『リノエリア』が魔術使いなら、戦地に送り込む必要もない。レベルが3もあれば、かなり離れた相手を攻撃することも可能だ。しかも、三代目がかけた呪いのこともある。もしかしたら、魔術レベルはもっと上なのかもしれない。そうしたら……。
    「お察しの通りです。私が使える魔術のレベルは最大15。この城の『蒼の洞窟』にある祭壇を使えば、この城に居ながらにしてエジャールを呪うことができました」
    「『できました』?」
     アルトがオウム返しした。まるで今はだめだという言い方に突っかかりを覚えたのだ。
    「『バヨナ病』だよ」
     それまで沈黙していたルアムが言い放った。
    「リノエリアさまはバヨナ病に罹患された。アルトも罹っているから分かるだろう。レベルや技術が足りても、魔力が足りないんだ」
     その通りです。
     リノは目を伏せた。
    「バヨナに罹った私には、『リノエリア』としての責務をこなせなくなりました。アゼルマインがエジャールに停戦を申し込んだのは、私が戦力にならなくなったからです」
     それは、今でも。
     小さな手を握り締め、拳を作るリノ。それをじっと見つめ、彼女はぽつりと言った。
    「私、子をなせないんですよ。治療さえすれば、可能かもしれないとは言われましたが、かたくなに拒みました。そして、チャクトワーフトに出会って、願ってしまった。『男性になりたい』って。……叶いませんでしたけど」
     彼女は手を開き、それで顔を覆い、下を向いた。
    「生きたいの……。私、生きたいんです……。まだ美味しいものも食べてないし、綺麗なものだって見たいし、勉強だってしたい。友達というものも作りたいし、恋だってしてみたい。どうして……どうして私、『リノエリア』なんだろう……」
     泣いているのだろう。震える肩は小さく、幼い子供のそれだった。
     初めて『リノエリア』の、人間としての言葉を聞いたルアムは、自分の意識が偏っていることに気づき、複雑な顔をして双子を見た。
     この、敵国の双子はどう感じたのだろう。彼にはそれが気になった。
     双子は、少しだけ目線をお互いにかわしてアイコンタクトを取ると、二人で跪き、リノに手を差し伸べる。
    「リノ」
    「姫」
     見よう見まねではあるが、それは騎士が誓う姿に似ていた。
    「キミを助けたい」
    「一緒に暮らそう」
     そう言われ、リノは顔を上げる。膝をつき、手を差し伸べている双子を見て、彼女は目を見開いた。
    「でも……」
     手を不自然な場所に置くリノに、双子は問いかける。
    「キミはどうしたいの?」
    「生きたいんだろ。それとも、オレたちと一緒に行くのは嫌か?」
     その問いに、リノは答えた。
    「……私は、敵国の皇女で……あなた方の国の人をたくさん殺してて……」
    「それは今聞いてないよ」
     アルフレッドがバッサリ切る。
     それを引き継いで、アルトが言いなおす。
    「オレたちが訊いているのは、『リノエリア』にじゃない。『リノ』っていう、ちょっとちゃっかりしてて、寂しがりやで、とびきり可愛い、オレを助けてくれた子に、一緒に行くかって訊いてるんだ」
     リノが一瞬止まった。
     しかし、再び涙をぽろぽろ流すと、
    「行くっ!!」
     双子のところに飛び込んだ。
    「お二人と一緒に行きたい! 行きたいです……! 生きたい……!」
     アルフレッドがリノを抱きしめて、何度も何度も頭を撫でた。
     アルトは立ち上がり、ルアムのほうを見て、少し首をかしぐ。
    「と、言う訳だ。ルアム。アゼル人であるお前のことを裏切ることになった。どうぞ嫌いになってくれ」
     ルアムはその言葉に対し、心底おかしそうに笑う。
    「何言ってるんだ。この話を聞いたら当然のことだろう。むしろ惚れ直した。なかなかできる判断じゃないぞ」
    「そうか。理解してくれて嬉しいよ。オレに惚れ直すのは別に構わないけど、やっぱりお前って変なやつだな」
    「本当にな。兄さまを逃がそうとするとか、お前マジで頭おかしいわ」
     知らない声がして、振り向くと、キャト族の金髪の青年が忌々しそうにその様子を見ていた。虹色の瞳は、やがてリノだけを見つめる。
    「ミカルド……」
     呟いたリノの細腕を無理矢理引っ張り、アルフレッドから引き離すと、青年は彼女を抱き寄せた。
    「兄さま。僕以外の男にそんなことさせないでくれよ」
     ミカルドは後ろについていた大男……ドルケに、リノを引き渡す。
    「連れていけ。式の準備を」
    「兄貴! なぜです!」
     ドルケはルアムの声に応えず、そのままリノを連れ去っていった。
     それを見送りつつ、ミカルドがアルトを至近距離で眺める。
    「僕の魔術をこんなことに使ったのか」
     アルトが睨みつけると、ミカルドは怖い怖い、と言いつつ、アルトの頬を撫でた。
     耐えるアルトを見て、ふふん、と笑うミカルド。
    「男の趣味は悪くないな。僕のコレクションに加えてもいいくらいだ」
     その言葉にアルフレッドが動き、ミカルドの手を叩いてアルトとの間に割って入った。
    「アルトに触るな」
    「なんだ、青いの。僕は今、品定めをしてるんだよ。邪魔するな」
     青いの、と言われ、アルフレッドがシャトレインチェインの小柄を取り出した。髪の色がアルトと違い青いことを、アルフレッドはひどく気にしている。それもあったが、アルトやリノをモノのように扱われて憤りを覚えていた。
     アルフレッドの威嚇にも物怖じすることなく、ミカルドは憎まれ口を続ける。
    「ああ、お前も綺麗だね。兄弟……にしては似すぎているな、双子か。片割れがバヨナにでも罹患したのか。これはいいコレクションになりそうだ」
    「それ以上減らず口を叩くようなら、『式』ってやつをお前の葬式にしてやるよ」
     まあ、そう言うなよ。
     ミカルドはそう言って、さらに後ろに控えていた男を呼んだ。
     ……双子の父だった。
    「……生きてたのか……」
     アルフレッドが忌々しそうにする。
    「感動のご対面だ。嬉しいだろ」
     ぱちん、と指を鳴らすと、アルトの紋様が光る。
    「あ、ぐっ……」
     アルトがその場にぺたんと座り込んだ。立ち上がる力は残っていないようで、その場で苦しそうな呼吸を続けている。
    「これで淫紋が定着した。その子供を好きにしていいぞ。ああ、たまには僕にもよこせよ。かなり好みなんでね」
    「はっ、王様も好きだねぇ。いいぜ、あんたは俺のスポンサーだもんな」
     ミカルドはそれを聞いて踵を返した。
     包帯の男はそう言って、アルトの髪をつかんで立ち上がらせた。焦点が合っていない目で、懸命に睨みつける自分の息子に、一発平手打ちを食らわせる。
    「アルト。分かるか? 父さんの言うことを聞かないから殴られたんだぞ」
    「……分かって……たまるか……」
     今にも襲い掛かろうとするアルフレッドに、アルトを見せ、男は牽制した。
    「アルフレッド。今、パパを殺したら、お前の大好きなお兄ちゃんは狂って死ぬぞ。そこのアゼルもだ。邪魔すんなよ?」
     もう、無理かもしれない。
     そう思って、アルトは少しだけ笑って、大好きな二人に懇願した。
    「アルフレッド、ルアム。……目、瞑って、耳、塞いで」
     彼の目から、大粒の涙がぼろぼろと落ちる。
    「さすがに、見られちゃうのは、堪えるから、さぁ……」
     それでも笑おうとするアルトに、もう一度平手打ちが飛ぶ。
    「なに笑ってんだお前」
     もう口答えする力もないのか、アルトが身体の力を抜いた。
    「父さんはな、お前たちのせいで人生めちゃめちゃになったんだよ。ただの色狂いなんだから、おとなしく売ってりゃいいものを……。まあいい。おかげで、お前の商品価値も上がったしな。いくらヤっても求めてくる少年なんて、高く売れるだろ」
     男は愉しげに笑う。
     下卑た笑いだ。アルトはぼんやりした意識で思う。
    「身体はどんな感じになったのか、じっくり確認してやるからな?」
     そう言って、男がアルトを押し倒し、服を裂いた。日に焼けた肌が露出する。
    「焼けた肌は父さんは好きじゃねぇなぁ。お前に似合わないしなぁ。なぁ、アルト?」
     アルトの肌を、男の舌がなぞった。
     快楽はあるが、気持ち悪い。肌が触れたところを、全部そぎ落としてしまいたい。
     それなのに。
    「ぁ……」
     こんなことにも悦びを覚える自分は、なんて醜くていやらしいのだろう。
     涙でぐしゃぐしゃになった顔を歪めて、アルトは自分を呪った。
     でも。
     呪うだけじゃだめだ。
     オレは。俺は。
    (自分で道を切り開く!)
     アルトは男に気付かれないように、自分の腰につけていたシャトレインチェインの小柄を手に取った。そして、男の背中に手を回すと、そこに勢いよく小柄を突き立てた。
    「ああああああああ!」
     男がわきに倒れた隙に、最後の力を使って立ち上がる。
     そのアルトを、ルアムが抱き上げて、アルフレッドに目配せをし、一目散に走りだした。
    「アルフレッド! ゲートを!」
     走りながら、ルアムが指示する。
    「先ほど、リノエリアさまの食事を一口食べたな? 彼女の唾液も少量だが摂取したはずだ! リノエリアさまのおそばにゲートを開ける!」
    「了解! さすが僕の親友!」
     走りながら、術式を展開し、ゲートを開くアルフレッド。一行はそこに勢いよく飛び込んだ。
     ゲートは便利だが、術の仕様で一分間は閉じれない。その間にあの男が追いついてこなければいいが。
     思いながら、走る。
     出口を潜り抜け、到着したのは、全面がブループリズムでできた洞窟だった。
     青く偏光する洞窟は美しいが、と同時に禍々しさも感じる。
    「なにこれ……」
     アルフレッドはぽかんとしてあたりを見回した。これが全部採掘されたら、ブループリズムの価格なんか崩壊する。
    「おそらくここが『蒼の洞窟』だろう。私も来たのは初めてだ」
     二人は奥へと進む。
    「姫のいる座標とはズレたな……。やっぱり、僕には魔法の才能がないみたいだ」
    「いや、原因はおそらく、このブループリズムだ。お前、この石の効力知らないのか? 魔獣から採れない、唯一の魔宝石だぞ。しかも強力な」
     話しながら、奥へ奥へと進む。
    「とにかく、姫を探さないと」
    「こうなったら、リノエリアさまにアルトの紋様を解いてもらうほかなさそうだからな……」
     三人は大きく開いた、広い場所に出た。
     そこには祭壇があり、正装をしたリノとミカルド、剣を携えたドルケがいた。
    「……アルトさん、アルフレッドさん!」
     ウェディングドレスを翻して駆け寄ったリノを抱きよせて、アルフレッドはミカルドとドルケを睨みつける。
    「なんだ、茶番は終わったのか?」
     祭壇の上で一行を見下ろすミカルド。
     その声を、あの男の声が止めた。
    「いいや、まだ終わりじゃないさ」
     振り返ろうとするアルフレッドをなぎ倒し、リノの腕を掴んで魔術銃を突きつけ、男はにやりと笑う。
    「王様。ちょいとお姫さまをお借りしますぜ。うちの息子たちの教育に必要でね」
    「ふーん」
     ミカルドは息を吐いて、男を冷たい視線で射抜いた。
    「僕の兄さまをそんな風に扱って、タダで済むと思ってんのお前」
     そう言いつつ、ミカルドが腰に下げていた魔術銃を構える。
    「ああ、冥途の土産に教えてやる。魔術銃ってのはね、こう使うんだ」
     彼はためらいなく、男の頭に向かって弾丸を発射した。

     ボンッ!

     着弾した瞬間、弾は男ごと爆発した。頭を失った身体は、血すら出ることなく、そのまま後ろに倒れる。
    「意外と威力ないもんだろ? レベル1なんてこんなもん……ああ、もう聞こえないよね」
     ミカルドは祭壇から降りて、固まっているリノの手を取った。
    「兄さま。式の続きだ。まだ『初代』への挨拶が済んでないだろ」
    「あなたは……人を殺してもなんとも思わないんですね……?」
     震える声で言うリノに、ミカルドが意外そうな顔をした。
    「兄さまだって大量に殺してるだろ。いまさら何を言うの? ああ、死体見るの初めてか。じゃあしょうがないな」
     兄さま、僕はね。
     ミカルドが諭すかのように優しく言う。
    「正直、国とか、戦争とか、人を殺すとか、殺されるとか、どうでもいい。兄さまさえ手に入れば、なにもいらない」
     彼は戸惑うリノの手の甲に唇を落とした。
    「逆に言えば、兄さまが手に入るなら、なんだろうが喜んでする。そうだな、例えば……」
     ミカルドがドルケを見た。
    「そこのドルケが、兄さまのことを好きだと知っていたから、精神を封印して協力させることも平気でする。薬入りのお茶を美味しそうに飲んでくれたよ。愚直だねぇ、コイツは」
    「なにが目的なんですか。そんなに世界が欲しいの?」
     リノの問いに、ミカルドが傷ついた顔をした。
    「世界なんかいらないよ。さっきも言っただろ。僕は兄さまが欲しいんだ。ただ、それだけなんだよ」
     彼はそう言って、リノを祭壇に連れて行き、呪文を唱えた。
     その呪文に応じるかのように、光が差し込んで異形が舞い降りる。
     かの姿は、アルトとアルフレッド、リノには見覚えのあるものだった。
     リノはその名を呟いた。
    「……キオネイナ……!」