【連載】ブルプリ/Stage12『道は開かれた』

  • blueprism12 2019/10/04 23:00

     宿を取り、部屋の中に入ると、アルフレッドは兄をベッドに寝かせて、鍵をかけた。
     振り返って、ベッドの方のアルトを見ると、潤んだ瞳でこっちを見つめている。アルフレッドは複雑な気持ちで、アルトの元に戻って彼を脱がせはじめた。
    「ん……」
     ピクンと震えて、されるがままに脱がされている兄を見て、アルフレッドは息を吐いた。
     アルトの胸が、服の隙間から見える。昂ぶっているのか、先端はピンと尖っていて、自分を誘っているように見えた。アルフレッドは思わず、それをつまむ。
    「っ!」
     アルトが悲鳴を上げて仰け反った。それから少しして、小さな声で汚しちゃった……と呟く。
    「ごめんね。先に下を脱がせればよかった」
     アルトのボトムに手をかけながら、アルフレッドが謝った。そのまま脱がすと、我慢できなかった証がとろりと半透明の糸を引き、アルトの太ももを汚した。
    「……なあ」
     一糸まとわぬ姿になったアルトは、服を脱いでいる弟に声をかける。
    「……抱かなくても、いいぞ」
     服を脱ぎ終わったアルフレッドは、聞こえなかったふりをして兄の肢体に跨った。
    「メチャクチャにするけど、いいよね?」
    「話聞いてるのか」
    「聞いてないし、聞きたくないそんなの」
     アルフレッドは半ば冷たく言い放つと、片割れの唇を奪った。中を舌で侵し、トロトロになったところをやっと解放する。
    「は、っ……。や、めろ、よ……」
    「ねえ。なんでそんなこと言ったのかだけ聞いてあげるよ。他の言葉一言でも発したら、昨日よりもひどい抱き方する」
     アルトは押し黙り、弟から視線を逸らせた。
    「だから言っただろ」
    「なにをさ?」
    「オレは誰にでも股を開くんだって」
     ふーん。
     アルフレッドは目を細めた。
    「だから、僕とはセックスしたくないって言うの?」
     沈黙したアルトを見て、アルフレッドは大きく息を吐いた。
    「決めた。理由聞けたけど、約束破るね」
     言うなり、アルフレッドは兄の髪の毛を掴んで彼を中腰にさせた。その彼の顔の前に、自分の下半身を持ってくる。
    「誰にでも股開くんでしょ? 咥えたこともないとは言わせない。僕も気持ちよくしてよ」
     アルトは震える瞼を閉じて、アルフレッドを口に含む。その兄に、アルフレッドは冷たい視線を投げた。
    「誰とでも寝るんだったらさあ。もっと僕ともしてよ。好きなんでしょ、そういうの。だったらさ」
     どぷり、とアルトの口内にたっぷりの精が注がれた。その途端、アルフレッドが頭を抑えたため、アルトはそれをすべて飲み込まざるを得なかった。なおも頭を抑えて、アルフレッドが兄に語りかける。
    「キミのお好みのように抱いてあげるよ。どんなのがいい? キミってMかと思ってたけど、壊れ物のように扱ってほしいなら、そういうプレイもしてあげる」
    「ん、んんッ」
     兄の上腿から滴る白濁を見て、アルフレッドは満足そうに笑う。
    「やっぱりMなんだね。咥えてて感じちゃった?」
     アルフレッドはそう言って、ようやくアルトの頭を離すと、今度は手首を掴んで押し倒した。
    「……なんでなんだよ……。アルト……」
     悔しそうに、アルフレッドは声を絞り出す。アルトの位置から、その顔は見えなかった。
    「僕はキミだけを見てるのに。キミじゃなきゃダメだって、言ったばかりなのに」
     アルトは小さく、ごめんと言って顔を背ける。弟はそれを無理やり自分の方に向かせた。見えなかった顔が、すぐ近くにあった。
    「なんで謝ったの? 僕の相手はどうしてもイヤ?」
     燃えあがるような光がアルフレッドの瞳に見えて、アルトは視線をずらした。
    「違う……」
     アルトが呟く。
    「オレは……。お前に好きになってもらえるような……相手じゃ……」
    「それは僕が決めることだ。キミが決めていいものじゃない」
     アルトの両頬を包み込み、アルフレッドは彼に言い聞かせた。
    「僕はアルトのことが好きだ。誰よりも愛してる。キミの身体も心も、僕のものにしたい」
     でも。
     アルフレッドはそう言って、紋様が浮かんでいる頬を撫でた。小さく悦びの声を上げる兄を見て、アルフレッドは少し寂しそうに笑う。
    「キミが僕を負担だと言うなら、僕の元から去ってくれても構わない。まだ僕の身体の使いみちありそうだし、今は抱かせてもらうけど。あとね……」
     アルフレッドは少し言い淀んでから、下を向いた。
    「……責めるなら自分でなく、僕を責めてほしい」
     唇を噛んで自分を戒め、アルフレッドは改めてアルトのほうを向いた。
    「キミがそんなになったのは……僕がキミの純潔を奪ったからだ。キミには、僕を責めていい権利があるんだよ」
    「権利……」
     アルトが呟くのを聞いて、アルフレッドはそうと答えた。
    「僕を弄んで、捨ててもいい。殺されても文句は言えないだろう。それくらいのことを、僕はキミに対してしてきたんだ」
    「……じゃあ」
     アルトが、弟に両手を伸ばした。アルフレッドはそれを身じろぎせずに受け入れる。その両手は、アルフレッドの頭を包んで抱き寄せてきた。
     そして、ぼそりとアルトが何かを言う。
    「……れ」
    「ん?」
     アルフレッドが優しく聞き返す。
     今度は、少しだけはっきりと、アルトは言った。
    「そばにいてくれ」
     それを聞いたアルフレッドは、身体を起こしてアルトの顔を見る。恥ずかしそうにするアルトは、更に続ける。
    「責めてもいいんだろ? だったら、オレがこんなになったこと……一生かけて償ってもらうからな」
     形のいい唇が再び動く。
    「……好きだ」

     ********

    「ん、」
     アルトは、アルフレッドの先端を小さな舌で丁寧になぞる。満たされた表情で弟に奉仕するその姿はひどく劣情を煽ってくる。アルフレッドはどぎまぎしながら兄に懇願した。
    「アルト……。その、もうちょっと……色気抑えてくれない?」
     その言葉に、アルトは心外そうにごちた。
    「……オレ、そんなに下品かな」
    「ち、違うっ! 色気を抑えて、って言ったの僕は! アルトがあんまりにも色っぽくて……そのっ!」
     頬を赤くさせて、アルフレッドは聞こえない程度の大きさで続きを言う。
    「妄想の中のアルトよりエロいなんて反則だよ……」
    「なんか言ったか?」
     兄の問いに、アルフレッドは慌てて手を振る。
    「なんでもないっ」
    「じゃあ、続けるな」
     歯を立てないようにそっと食んだアルトは、そのまま舌で愛撫を始めた。
     ちゅぷちゅぷという音と同時に、アルトの髪が揺れる。
     その葡萄色の髪を撫で、アルフレッドは話し始めた。
    「僕さ……。心の中にアルトがいて」
    「ん……」
     アルフレッドは撫でながら続ける。
    「……そのアルトはさ、僕の言うこと何でも聞いてくれるんだ。えっちなお願いとか、言わなくても叶えてくれて」
     アルトが唇を離し、一言発する。
    「それ、魔法で具現化したほうがいいんじゃないか」
    「そうじゃない。続き聞いてよ」
     アルフレッドが少し不満げにしてから、続ける。
    「……でも、現実のアルトって……思ってた以上に可愛いんだなって……再確認したんだ、今」
     アルトはぽかんとして呟いた。
    「なにそれ」
    「あ、気づいてない? 気づいてないならいい。僕だけの秘密にしとく」
    「なんだそれ」
     アルフレッドは恥ずかしそうに笑い、秘密と言って、兄の髪を手に取った。長い髪から、シトラスの匂いがする。
    「……今回の件が終わったらさ、形だけでも、結婚式挙げない?」
    「いいけど」
     じゃあさ、じゃあさ。アルフレッドが嬉しそうにする。
    「ウェディングケーキ、作ってほしいな。でっかいやつ」
    「記憶は戻ったけど、作れるかどうか……。頑張るけど」
     アルフレッドはさらに続ける。
    「ルアムにタキシード作ってもらおう。かっこいいやつ」
    「アイツ、お金受け取るかな……。それが心配なんだが」
    「無理矢理にでも受け取らせる! なんなら、それプラス、アルトのファーストバイトの権利をあげよう!」
     おい、人のことを勝手に景品扱いするな。アルトが笑うと、アルフレッドもつられて笑う。
     だがしかし、アルフレッドはふと寂しそうにすると、こんな風に切り出した。
    「一つだけ、約束してくれる?」
    「なに?」
    「……幸せになってほしい」
     変な言い方だな。アルトは思うが、あまり気にしないようにした。アルフレッドが変な言い方なのはいつものことだ。そして、それを追求しようとしてもはぐらかされる。だから、あまり追求しない癖もついた。
    「幸せになるよ」
     よろしい。
     そう言うと、アルフレッドは兄を押し倒した。

     **********

     疲れ果てて眠ったアルトを、アルフレッドが撫でていると、ドアがノックされた。
     アルフレッドはドアに近づいて、身構える。
    「レインスターさま。いらっしゃいますでしょうか。ロビーでお待ちの方が……」
     受付の声だった。
     訪ねてきたのは多分、ルアムだろう。
    「今行きます。先方にもそうお伝えしてください」
     分かりました。
     そう言って、受付が去っていく音が聞こえた。
     アルフレッドはベッドのほうに戻り、兄の瞼にキスを落とす。
    「アルト、起きて」
    「ん……」
     目を覚ましたアルトに、服を着るよう促し、アルフレッドは言う。
    「ルアムが来たみたいだよ。少しは進展があるといいけれど」
     着替え終わったアルトは部屋のキーを持ち、行こうと声をかけた。
    「身体は平気?」
    「なんとか持たせる」
     その言葉に、アルフレッドは少し顔を曇らせた。
    「もうちょっと欲しかったら、今のうちならなんとかなるよ」
     そうじゃない。アルトは困った顔をする。
    「……淫紋の力が相当強いらしい。もう、お前のじゃダメなんだ」
     その言葉を聞いて、アルフレッドは唇を、血が出るほどに噛み締めた。
    「……分かった。早いところ、解けるように、頑張る、から」
     部屋の外に出て、鍵をかけ、ロビーに向かう。
     ロビーの入り口に、ルアムと見知らぬ大男がいた。青みがかった白銀の髪はウェーブがかかっている。ドーグ族であろうその大男は、訝しげな顔を双子に向けた。アルフレッドがアゼルの民族服の下に魔導服を着ているのが見えて警戒しているのだろう。
    「アルフレッド。ずいぶんフラフラしているように見えるが、アルトは平気なのか?」
     声をかけられて、アルフレッドはいや、と言葉を濁す。聡明な青年はそれで察したのか、そうか、と短く言った。
    「紹介しよう。私の兄、ドルケだ」
     ルアムは隣の大男を双子に紹介し、握手を促す。アルフレッドは右手を差し出すと、
    「はじめまして。アルフレッド・クリス・レインスターと申します」
     と、定型文のような挨拶をした。
    「はじめまして。ドルケ・プラファム・ミドゥーと申します。弟がお世話になっているようで……お礼申し上げます」
     大男……ドルケはようやく顔を崩すと、人懐っこい笑みを浮かべ、アルフレッドの手を両手で包み、ブンブンと振った。
    「こっちは兄のアルト・ヴァレル・レインスターです。すみません。彼は今、具合が悪くて、握手には応じられそうになく……」
    「ああ、お気になさらないでください。概要は伺っております」
     理解が早くて助かった。
     アルフレッドは思い、提案する。
    「取り敢えず、部屋を取ってあります。そこで話しましょう。アルトのことも休ませたい」
    「了解しました」
     移動中、アルフレッドはドルケの右手をちらりと見た。リノの持っていたものと同じデザインの指輪をはめている。
     あの子、本当に皇女なんだ。
     改めて確認し、大事に巻き込まれたことに気が付いてぞっとする。
     姫は? 無事なの? あの子が僕たちのせいで傷つきでもしたら、また戦争になるんじゃ……。
     部屋に辿り着いて、ドアにロックをかける。
     それぞれテーブルに着いたあと、開口一番、ドルケが言った。
    「リノさまが大変恩義を感じていると話しておられたエジャン人というのは、貴殿たちだとお見受けしますが」
     その言葉に、アルトが身を乗り出した。
    「リノはっ! リノは無事なのかっ?」
    「ご無事です。長距離の空間転移を使われたため、大事を取ってお休み頂いております」
     それを聞いて、アルトの顔が崩れ、ボロボロと泣き出した。
    「よかった……。無事で……よかった……!」
     彼の背中に触るわけにもいかず、座るように促してから、アルフレッドはドルケに視線を向けた。
    「リノエリアさまのご無事を確認できて幸いです」
     そして、小さく謝る。
    「……彼女をお守りしきれず、申し訳ありません」
    「いえ! ああ見えまして、リノさまは大魔術の使い手でございます。ご心配には及びません」
     アルフレッドはそれを聞いて、胸を撫で下ろした。
     それから、彼に向かい、おずおずと頼みごとをする。
    「あの、事情を知っているのなら折り入って頼みが」
     アルフレッドの言葉に、ドルケは頷いた。
    「ええ。リノエリアさまも、謁見を望まれております。リノエリアさまとご一緒でしたら、皇王にお会いするチャンスもありましょう」
     双子が顔を見合わせる。
     道は開かれた。