【連載】ブルプリ/Stage08『赦し』

  • blueprism08 2019/09/06 23:00

     アルフレッドは、ベッドに兄を寝かせ、彼の傷に治癒魔術を試みた。
     アルトの首の傷は比較的すぐに治り、その呼吸は幾分穏やかになった。
     それを聞いて、アルフレッドは胸を撫で下ろした。
     頑固なほどに真っ直ぐな葡萄色の髪をそっと撫でる。いつも通り漂うシトラス系の香り。
     アルトは肌が弱いのに日光浴が好きで、よく日にかぶれているため、ケアのためにクリームを塗ってあげている。
     どうせだから好きな香りにしようと、少し強引にシトラスのもので揃えてはアルトに呆れられていた。
    『お前、好きなヤツをできるだけ自分色に染めたいんだな』
     そうだよ。僕はキミを自分の色に染めたいんだ。
     頭の中で、その呆れ顔が、軽蔑を含んだものに変わった。
    『お前を殺したって俺の気が済むわけないだろ。お前に絶望してもらいたいんだよ、俺は』
     さっきのことを思い出して、泣きそうになったのをぐっと堪える。
     絶望。
     そんなものは、アルトと旅に出てから幾度となく味わったはずだったのに。
     それでもまだ怖いなんて。
    「アルト」
     死んだように眠っている兄の顔を見る。
     安らかすぎて、なんだか怖い。
     どんな夢を見ているのだろう。
     せめて、夢の中でだけは、僕のことを好きでいてほしい。
     アルフレッドはそんなことを思って、自分のエゴに吐き気を覚えた。

     ********

     懐かしい夢を見た。
     夢というより、それはアルトの覚えていなかった、過去の出来事なのだろう。

    「はい。あーん」
     優しい顔で、スプーンに載ったオートミールを差し出してくれたのは、幼き日のアルフレッドだ。
    「ん」
     口の中に入ったオートミールは、懐かしい味だった。
     元々のレシピは母親のものだが、この味はアルトが改良したレシピのものだろう。
     何度も試作して、味見したものだ。忘れるはずがない。
    「美味しい?」
    「おいしい」
     発した自分の声は高く、発音はたどたどしかった。
     双子の故郷は世界共通語を使わない。
     だが、今、双子が日常会話に使っているのは世界共通語だ。
     世界各地を飛び周り、アゼル人とも仕事をするようになったので、世界共通語をマスターしたほうが都合がよかったのだ。
     ただ、長いこと外にはめったに出なかったゆえか、アルフレッドに記憶をリセットされ続けたせいか。アルトは共通語をマスターするのが遅かった。
     多分、これは片言のような感じでしか喋れなかった頃の記憶だ。
    「あのね、アルフレッド。オレもあーんしたい」
     アルトのわがままに、アルフレッドは頬を染めて笑った。
    「スプーン、上手に持てる?」
    「だいじょうぶだよ。オレ、おにいさんだもん」
     アルトはアルフレッドから無理矢理スプーンを奪って、彼にオートミールを食べさせた。
    「ね、できたよ」
    「うん、上手!」
     嬉しそうに笑うアルフレッドに、暖かい感情を抱いたのを少しだけ覚えている。

     ********

     場面が変わる。
     違う間取りの部屋だ。これはいつの記憶だろう。
     きょろきょろとあたりを見回すと、ソファに座ってうたたねをしているアルフレッドが見えた。
    「かぜ、ひくよ」
     また自分の声は幼い。
     目についた毛布を持って、アルフレッドにかける。
     よくよくアルフレッドの顔を見ると、ひどいクマができていた。あまり寝ていないのか、疲れているのかは分からない。
     アルフレッドが持っていた書類が、窓からの風ではらりと舞い落ちた。
     アルトはそれを拾い、読んでみる。
     世界共通語だ。
     当時の記憶だからだろう、ところどころしか読めない。
    『魔〇退治報〇 ●月●日・魔〇石……レア10個、ノーマル20個。 ●月●日・魔〇石……レア9個、ノーマル18個。 ●月●日・魔〇石……レア13個、ノーマル19個』
     多分、マーリンズギルドから貰う、魔獣退治の報告書だ。
     この報告書は、魔宝石を換金すれば受け取ることができるのだが、毎日貰えるわけではなく、週ごとの発行となっている。
     だが、この報告書を見て、アルトは驚愕した。毎日、レア種の魔宝石を10個近くも換金しているのだ。
     レア種の魔宝石は厄介な魔獣しか残さない。
     リノに助けてもらった時の魔獣が落としたのがレア種だ。
     あんな風にトリッキーな戦い方をする相手ばかりなのに、それを一人で……。
     しかも、毎日のように、ノーマル種も20個近く換金している。
    「アルフレッド……」
     再び、彼の顔を見た。やつれているし、顔色も悪い。
     アルトは弟の頬を触った。頬を触っている自分の手は、今よりもさらに小さい。
    「……」
     そっと、唇を寄せる。
     唇と唇が触れようとしたその瞬間、アルフレッドははっと目を開けて、音を立てて急いで立ち上がった。
    「あ……」
     何と声をかけようか迷っていると、アルフレッドがひどく傷ついた顔をしてアルトの肩に手を置いた。
    「そういうことは、好きな人にやるものだよ」
     寂しそうに笑った顔が、とても切なくて、その日の夜は一晩中寝付けなかったのを思い出した。

     ********

     また場面が変わる。
     アルトは天井を向いていた。寝ているのか、たまにベッドが揺れる。
     慣れていて、慣れていない快楽がアルトの背筋に走る。
    「あ、ん……っ……」
     自分の喘ぎ声は、少しかすれていた。声変わり最中の時期だろう。
     過去の記憶だろうし、アルフレッド相手とはいえ、肌を重ねているのはやはり恥ずかしい。そんなことを思う。
    「……ごめ、ん……。お前のこと……本当に……覚えて、ない」
     アルフレッドの姿は、逆光で見えない。
     それどころか、彼が何かを喋っているのだが、それも耳に届かない。
    「覚えてない……のに……。こんなこと、言うのは、本当にはばかられるんだけど……」
     ああ、これは。
     アルフレッドだろう影に抱かれながら、アルトは思い出す。
     『犬に驚いて階段から落ちた』日だ。
     アルトが一つ一つ、記憶の紐を解いていく。
    「俺、お前のこと……信頼……、してるよ」
     記憶が混乱して、アルフレッドのことを何一つ覚えていなかった。
     それなのに、一から説明してくれて、状況が落ち着いて自分で判断できるようになるまで一緒にいてくれると、そう約束してくれた彼のことをどうしようもなく好きになってしまった。
     だから、この日、自分からベッドに誘ったのだ。
     アルフレッドはひどく驚いた顔をしたが、確か、いろいろと理由をつけて、無理矢理抱いてもらったような気がする。
    「頭、おかしいと思う? ……全然、覚えてない男、に……身体、許す、なんて……っ」
     この時、アルフレッドが何と言っていたか、アルトは全然思い出せなかった。
    「あ、でも……一つだけ、心配……してて……」
     乾いた笑いが、アルトから漏れる。
     空笑いする自分の声は虚勢を張っているように聞こえた。
    「……アルフレッド、が……、流れで、俺と……。んっ……。こうなってたら、どうしよ……って……」
     何を言っているんだろう。
     自分でも思うのだから、この時のアルフレッドは意味が分からなかったろうな、とアルトは思った。
    「えっと……。でも、あの……勘違い、しないで欲しいんだけど……。俺、別に……誰にでも、身体許すとか……ない……と、思うし……」
     アルフレッドの手が止まる。何か言っているのかもしれない。
     なんで思い出せないのだろう。アルトは悔しく思った。
    「アルフレッドのこと……好きなんだ。本当、だよ……」
     ぐっ、とアルフレッドが挿入ってくるのを感じて、アルトは嬌声を上げる。その声に思わず笑いつつ、いつもと違う愛され方に戸惑う。
    「あはは……。やっぱ、身体は……覚えてる、の、かなぁ……。初めてじゃ、ないよな……。きもち、い……もん……」
     ベッドが定期的にきしむ音が、やたらとリアルだ。
     そして、身体に走る、ひどく甘くて切ない感覚も。
     アルフレッドの顔がチラリと見えた。こちらを睨みつけているような、厳しい顔。それなのに、アルトに与える感覚はあくまでも甘く、そして激しかった。
    「あっ、あっ……。や……。激し……」
     アルトはシーツをつかんで、なんとか耐えようとする。
    「俺……、いつも、こんな愛され方……してた、の……? 壊れ、そ……」
     そうやって、耐えようとするアルトの手首をつかんで、アルフレッドは抽挿を激しくした。
     そして、いつもは責めない最奥に入り込んだアルフレッドは、そこを押し広げる。
     快楽とも苦痛ともつかない感覚がアルトの精神を支配する。
    「そ、こ……っ。だ、め……ぇッ!」
     そこを執拗に責め続けられたアルトは、大きく開けた目から、ボロボロと涙を溢れさせた。
    「あ……。は、ぁ……っ! ……っ。イ、く……ッ!」
     ドロッとした熱いものが中に大量に注ぎ込まれる感触と共に、アルトは絶頂に達した。自分の飛沫が下腹部に散った感触がする。
     だらしなく開いた唇から、透明の糸が引いて、ベッドを汚す。
    「……ねぇ……、アルフレッド……」
     目の前が真っ白になっていく。
     最後に、アルトが問いかけた。
    「俺のこと……好き?」
     そうだ、この時。
     今見た記憶で、この記憶だけは『犬に驚いて階段から落ちた』後なのに、まったく思い出せなかったのは……。
     問いに答えてもらえなくて、すごく悲しかったから。
     俺は、この日のことを忘れることにしたんだ。

     ********

     暗い場所にいた。
    「……」
     あたりを見回すが、誰もいない。
     それどころか、何もない。
     夢は終わったのだろうか。それなら、ここはいったいどこだというのだろう。
    「……やっと来てくれたんだね」
     突然、聞き覚えのある声に話しかけられ、アルトはそちらを向いた。
     声をかけたのは、自分だった。
    「お前は?」
    「オレだよ」
     声をかけた方は、声変わりする前の声。
    「ここはどこなんだ?」
    「ここは、『精神の行き止まり』」
     子供のアルトは答えて、にっこりと笑った。
     その笑みは、なんだか居心地が悪いものだった。アルトは眉をひそめる。
    「ずっと、キミが来るのを待ってた」
     子供の方が言い、アルトを見つめた。少し色素の薄い金色の瞳は、なんだか人の心を見透かしていそうで、すごく苦手な感じの視線だ。
    「ん、そうか」
     早く夢から覚めたい。アルトが内心うんざりした。
     覚めても地獄なことに変わりはないが、この、人の中身を見透かすような、幼い頃の自分の姿をしたなにかから、早く逃げたかった。
    「全部の記憶、思い出せた?」
     幼い頃の自分は、ずいぶん遠慮なしにズケズケと訊くものだ。
    「まだ全部は思い出してない……と思う。もっとも、思い出したくないようなものも多いと思うけど」
     アルトが言うと、幼い頃の自分はわざとらしく、へえ、と相槌を打つ。
    「例えば、自分がどんなに淫らでいやらしい人間か、とか?」
     その言葉に、アルトは身体を固くした。
     幼い頃の自分は、笑顔を崩さないで続ける。
    「キミってさ、ホント誰にでも身体許すよね。自分でも判ってるでしょ」
     そう言いながら、幼い頃のアルトは、今のアルトに近寄って抱きついてきた。
     抱きつかれて、アルトは、自分たちが裸なことに気がついた。
    「離せよ……っ!」
    「そんなこと言っても、身体は反応してるし。キミ、自分でもいいんだ」
    「そんなこと……」
     子供の自分を振り払おうとするが、存外に力が強く、振りほどけそうになかった。
     それを見て、子供のアルトは大人のアルトをその場に組み敷いた。
    「知ってるよ。キミ本当は、アルフレッドに初めて犯されたあの夜、すっごく悦んでたよね。やっぱり嬉しかったのかな。じゃなかったら、あんなに痛かったのに、あんなに喘がないもんね」
    「違うッ! あれは……あれは本当に……。本当にショックで……!」
     ふーん……。
     子供のアルトは目を細めて、アルトを見た。
    「ショックなのと、されたかったのは両立するでしょ? オレはキミのこと、なんでも知ってるよ。もっとお話してあげようか? 例えば、アルフレッドに純潔を奪われた後、あの感覚が忘れなくて自分で慰めることを覚えてしまったこととか。父さんや村の男に抱かれた後は、必ずアルフレッドのこと想って火照りを抑えてたとか」
    「やめろッ!」
     アルトが絶叫する。
     少しずつ少しずつ、記憶が蘇る。

     あの男は、アルトがアルフレッドに抱かれているところを盗み見ていた。そのうえで、アルトが自分を慰めているところに遭遇し、脅迫したのだ。
    「大好きなお兄ちゃんが、自分を思い浮かべながらそんなことをしているなんて知ったら、アルフレッドはさぞかし喜ぶだろうなあ?」
     怖かった。
     何もかもが怖かった。
    「……」
     カタカタと震えて、審判を待つアルトに、あの男はひどく優しい声で言ったのだ。
    「父さんの言うことを聞けば、お前がそんな子だなんて、アルフレッドに言わないでおいてやる。どうだ?」
     一も二もなく、アルトは頷いた。
     その後に味わった苦しみは、筆舌に尽くし難いものだった。
     ただ、なぜか、ひどく興奮を覚えた自分がいたのは間違いない。達するたび、アルトは声にならない声で、何度も何度も名前を呼んだ。
    「アルフレッド……アルフレッド、アルフレッド……アルフレッド――……!」
     その様子を気に入った父親は、アルフレッドが学校にいる時間に、アルトを求めるようになった。。
     アルトは穢れるたびに、アルフレッドのことを想い浮かべて自分を慰めた。そうすれば、少しだけキレイになれるような気がした。
     と、同時に、後ろめたさから、アルフレッドを避け続けた。
     初めて客を取ったのは、父親の保身からだった。泥酔した父親が、アルトを抱いたことを他人に話してしまったらしい。保安所の連中にバレたら、父親は捕まっただろうが、秘密を握った男が要求したのは、アルトの味見だった。
     その男は、嫌がるアルトの服を引き裂き、父親の前でその肌をさんざん味わった。
    「嫌だ! 嫌だよ! 父さん! イヤっ! 助けて……アルフレッド――……!」
     果てたアルトに、男は数枚の金貨を投げつけた。
     要らない、こんなもの。
     そう思いつつ、男を見ると、男は品定めをするかのようにニヤニヤしながらアルトを見下ろした。
    「いやあ。コイツ、本当に上物だよ。それに、実はかなりの好き者とみた。あんたが癖になるのもわかるなあ」
     男が笑う。憐れみと、軽蔑を込めて。
    「しかも聞いたか? 果てるときにコイツ、弟の名前を呼んだぞ! お兄ちゃんは弟が好きなんだねえ! 弟にも抱いてもらったらどうだ? こんなにステキなお兄ちゃんを見たら、あの生意気なアルフレッドだって、堪らんだろうさ!」
     男は父親に向かって言う。
    「そうだ。あんた、金に困ってるんだろ? コイツに売らせればいい。相手は充てがってやるよ。こういうのが好きなやつはたくさんいるからな」

     そこまで思い出したところで、子供のアルトは、アルトの頬を撫でた。
    「そういえば、キミの好きな犯され方はひっどいもんだよね。複数人にされるのが好きで、特に無理矢理頭を押さえつけられて、中と口に……」
    「やめてくれッ!」
     その言葉で、アルトはまた思い出の迷宮に入っていく。

     アルトを抱いた客はみんな、蔑むような目でニタニタ笑いながら、果てたアルトを見下ろすのが好きだった。
     そして、酒場で酒のツマミとして、アルトがいかに淫らな子供か、面白可笑しく語るのだ。
    「いやあ、話には聞いてたが、本当に好き者なんだな」
    「どんなに嫌がったふりをしていても、結局最後にはあんあん喘ぐしよ」
    「かわいい顔して、一体何人の男に抱かれたんだろうな」
    「この村でアイツの肌を知らない男はいないんじゃないか?」
    「違いねえ」
    「そうそう、それに聞いたか? 果てるとき……」
    「聞いた聞いた。あれ、弟の名前なんだって?」
    「もしかすると、弟にもヤラせてるのかもしれないぞ」
    「ああ、だから名前を呼ぶのが癖になっちまってるわけか」
    「ってーことは、弟くん、あんな上玉とヤリ放題かよ。羨ましいねえ」
     そんな言葉は、最中にも投げかけられた。
    「あれ、今日は燃えねえな。弟呼んできてやろうか?」
     その言葉にアルトがピクッと動くと、相手はさぞ愉快というふうに笑った。
    「そっかそっか。やっぱり、お前の想い人は弟か! じゃあ、今度弟を交えて仲良くしような? そういうのも好きだろ?」
     打ち付けられるものが、ぐっと硬度を増した。
     アルフレッドにだけは……こんな思いをさせたくない。
     アルトは、とぎれとぎれの声で懇願した。
    「弟は、関係、ない、から……。違う人と、なら……いくらでも、する、から……。望み通りのことも……いくらでも、します。だから、アルフレッドにだけはやめて……。やめて、ください……。お願い、します……」
     その話が元締めの耳に届いたのだろう。次に客を取らされたとき、三人もの男が相手だった。
     ありとあらゆるところを侵され、散々嬲られたあと、アルトは、それを悦んでいる自分に気がついて、反吐が出そうになった。
     穢されたからだ。もっと、キレイにならなきゃ……。
     その日の深夜、一人きりになったアルトは、何度も何度もアルフレッドを想って身体を慰め、そして、キレイにならない自分に気づいて絶望し、
    「アル、フレッド……」
     弟の名前を呼んで、果てた。

     子供のアルトは、嫌がるアルトに構わず、話を続ける。
    「オモチャもお好みなんだよね? まあ、それでも最後は中に出されないと気が済まなくて、いつも相手におねだりするんだっけね」

     父親には、毎日のように抱かれていた。比較的ノーマルなときもあれば、アブノーマルな形で抱かれることもあった。
     ある日、ひどく乱暴な形のものを、中に挿れられた。それが『そういうもの』だと知るのはだいぶあとだが、いつもと違う感触は、アルトには気持ち悪いだけだった。
    「ヤダ、痛い、よぉ……。父、さん……」
     散々中を掻き回され、敏感になったところに、いつものものが挿入ってきた。
     言いようのない感覚が身体中を駆け回ったアルトは、おかしくなり始めていた。知らず識らずのうち、腰を動かしながら、あの男にねだっていたのだ。
    「中に……出して……ぇ。辛いんだ。辛いの……。父さん……」
     その言葉に興奮した父親により、何度も何度も中で射精された。意識を手放しそうな虚ろな状態のアルトは涙を流しながら、一つのことしか考えられなかったのを覚えている。
    (もう……戻れない……)

     ああ、そうそう。
     子供のアルトが、思い出したかのように言う。
    「何人もの男のを咥えながら、ガンガン突かれるのにハマったこともあったっけ。あと、犯されてるところを他人に見られてオカズにされるのとか。不特定多数の男からいっぱいかけられるのも実は好きだし、自分を慰めてるところを観られると燃えちゃうんだっけ?」
    「やめて、くれ……」
     アルトが震える声で懇願する。
     思い出したくない。
     これ以上、思い出したくないんだ!

     男たちの相手は、だんだん激しいものになっていった。
    「あ、は、ぁっ」
     両手に握らされたものを交互に舐めさせられながら、中を侵され、アルトは腰を動かして全員に向かって叫んだ。
    「穢して……っ! オレの、こと……めちゃくちゃに……ッ!」
     たくさんの精を浴び、中にも注ぎ込まれて、アルトは穢された実感を心底愉しんだ。それだけが、生きている感覚を与えてくれた。
     全員が果てて眠りについたあと。アルトは、そこからそっと抜け出して、アルフレッドの部屋に行った。
     すやすやと眠っているアルフレッドを見て、アルトの心は安らいだ。この寝顔は、オレが守る。そう思った。
    「ん……ッ。ア、ルト……」
     寝言で名を呼ばれて、背筋に快楽が走る。堪らなくなって、アルフレッドの寝顔で自分を慰め始めた。
     ああ、自分はここまで墜ちた。そんな涙で頬を濡らしながら。
    「最愛の弟の寝顔はいいですかぁ? お兄ちゃん?」
     振り向くと、今日の客たちだった。
    「うわ、コイツ本当にすげえな。弟の寝顔でかよ」
    「お兄ちゃんは弟だったらなんでもオカズにできるんだもんな?」
     男の一人が、アルフレッドが脱いだのであろう下着を、アルトに渡した。
    「これでもできるんだろ? やってみせろ」
     一瞬たじろいだアルトは、しかしすぐにアルフレッドの下着を受け取り、言われたことを実行に移した。
     匂いを嗅いで、自分を昂める。久しぶりに嗅いだアルフレッドの匂いは、少しだけ、周りの大人と同じ匂いがした。
    (いい、匂い……。アルフレッドの……)
     彼の匂いだけで、アルトの中心は熱く滾り、今にもはちきれそうなくらいになった。それを見ていた男たちは、アルトを囲む。
     アルトが自分の先端に刺激を加える。彼はこのとき、まだ精通していなかったが、快楽を得ることはできた。
    「ぁ……! アルフ、レッド……!」
     アルトが果てると、三方向から白濁液がかけられた。散々それを浴びたアルトは、呆然としながらアルフレッドを見る。
    (……よかった。眠ったままだ)
     快楽に抗えず、悦んでいるいやらしい身体。
     こんな姿を、アルフレッドにだけは見られたくなかった。
     だが、男たちはそれで収まりがつかなかったようで、眠っているアルフレッドの前でアルトを犯し始めた。
    「!」
    「ほらほら。大きな声を出したら、愛しの弟くんが起きるぞ?」
    「むしろ、弟に見てもらったほうがいいんじゃねえか?」
    「お兄ちゃんはこんなに淫乱なんだよ! だから、弟くんもオレのこと抱いて!てか!」
     その物音に、アルフレッドが目を覚ます。
    「……アルト?」
    「見ないでぇッ!」
     アルトが力の限り叫ぶ。
     アルフレッドはしばらくアルトの方を見ていたが、幸いにもかなり寝ぼけていたらしく、やがて眠りに落ちてしまった。
     アルトは泣きながら微笑んで、されるがまま穢された。
     ところで、この話には後日談がある。
     アルフレッドの部屋の前を通ったとき、荒い息遣いを聞いたアルトは、少し開いていたドアの隙間から、中をそっと覗き込んだ。
     部屋の中ではアルフレッドが自分を慰めていた。
    「この前見たアルトの夢……。すごく……よかった……。白濁まみれで……えっちで……。かわいい……かわいいよ、アルト……」
     夢だと思っていたのか。
     でも、なんて。
     なんて甘美なんだろう。
     アルトはそう思いながら、その場で自慰を始めた。アルフレッドに、あんなあられもない自分をオカズにされている。思うだけで、前からは先走りが垂れ、後孔はとろとろになった。
    「あんな……知らない男のじゃなくて……今度は……僕のを……いっぱい……い~っぱい……かけてあげたい……! アルト……。……きっと、キレイなんだろうな……」
     アルフレッドの言葉に、アルトの全身が悦びで震えた。
    「ああっ、アルト……」
    「アルフ、レッド……」
     アルトは少しだけ、ほんの少しだけ、救われた気がした。

    「そういえば、父さんに言いつけられて、一日中オモチャ挿れてた日も多かったよね。一時期は毎日。自分から言い出した日もあったしさ。あの時、アルフレッドに声かけられるたびに絶頂してたんでしょ? それ知ったら、アルフレッドどう思うかなぁ」

     父親からの要求も、エスカレートの一途を辿っていた。
    「アルト、お前にいいものをやるよ」
     そう言ってきた父親により、アルトは後孔にオモチャを突っ込まれ、専用の器具を取り付けられた。
     ヴン、と振動が伝わって、アルトはその場でビクンと仰け反る。
    「一日それで過ごせ。その後のお愉しみは、きっと信じられないくらい気持ちいいぞ?」
     そんなふうに言われて放っておかれ、フラフラになりながら家事をやっていたアルトは、ふと時計を見た。
     もうすぐ、アルフレッドが帰ってくる。おやつを用意しておかないと。
     その時、予定よりも少し早く、アルフレッドが帰宅した。
     快楽でとろとろになった思考回路で、火照った顔で、アルトはできるだけ普通に振る舞おうとする。
     玄関からアルフレッドが歩いてきて、リビングにひょっこりと顔を出した。
    「アルト」
     その声にビクッと震え、アルトはその場に倒れ込んだ。
    「アルトっ? 大丈夫っ?」
    「触るなっ」
     アルトは差し出された手を、パシン、と振り払った。
     呼ばれただけでこうなら、触られたら……。
    「アルト……」
     もう一度呼ばれ、アルトは甘い吐息を吐いた。
     気持ち、いい。
     もっと、呼ばれたい。
     アルフレッドに呼ばれるだけで、こんなに気持ちいいなんて。
    「アルト」
     ああ、アルフレッド。キミの兄さんはね、こんな子なんだ。
     こんな……淫らな。
     以来、アルトは毎日のように、このおもちゃを装着して過ごした。
     アルフレッドに呼ばれたら、すぐに達するように。

     あ、アルフレッドといえばさ。
     天使のように優しい顔をして、子供のアルトは話を切り替えた。
    「ついにアルフレッドも、キミが身体を売ってたこと、知っちゃったね」
     くすくすと笑う、子供の形をした悪魔は、それでも優しげな顔で囁きかけてきた。
    「キミが執着してて、大切で、大好きなアルフレッドが。自分のお兄ちゃんが穢れてるって知っちゃった」
     組み敷いたアルトの耳元で、優しく、ゆっくりと、毒を吐く。
    「さっき抱かれた時だってそうだ。淫紋があるから淫らなことを言った? 淫紋があるから、あんなに激しいことをした?」
     訊いたが、返答がないのを見て、悪魔は楽しげにアルトの耳元で続ける。
    「う・そ・つ・き」
     知らないなら、気づいてないなら、教えてあげようか。
    「アルト・ヴァレル・レインスターって男はね、誰とでも寝るし、簡単に身体を許すんだ。だって、気持ちいいから」
    「やめろ……」
     その毒は、確実にアルトを苦しめた。
    「可哀想なアルフレッド。お兄ちゃんがこんな男だなんて知らずに、ただただ真っすぐに、キミだけを見ていてくれたのにね」
    「もう……。もう、やめて……くれ……」
     アルトはただただ悪魔に懇願する。
     そんな悪魔は、アルトの耳に吐息を吹きかけた。とても冷たい吐息。凍りそうなほどに。
    「ね、アルフレッドをオレにちょうだい。キミは彼のこといらないみたいだし、キミにはもったいないし、別にいいでしょ?」
     アルトの手は、すでに血が通わなくなったかのように冷え切っていた。
     力を入れることもできず、上にいる悪魔にされるがまま、身体を預ける。
     悪魔は愛おしそうに、アルトの胸を何度も撫でる。
    「オレね、ずーっとずーっと、アルフレッドが欲しかったんだ。なのにさ、キミはアルフレッドに冷たいし、ひどいなって思ってたんだよね」
     アルトの胸の尖りを、悪魔が思いっきりつまんだ。
     声を上げたアルトを見て、悪魔は楽しげに笑う。
    「オレにさえ、こんなこと許して、甘い声上げちゃうような淫らな男がさ、好きだって言ってくれてる人には本性を現さないって、こんなひどいことないよね?」
     悪魔は、今度はアルトの胸に舌を這わせた。
    「それにあの態度。アルフレッドがどれだけ苦労してたか知ってて、あんなに苦しめて。キミって悪魔みたい」
    「お前こそ……悪魔……だろ……」
     心外だなぁ。
    「オレはキミだよ。アルフレッドが何度も記憶を書き換えた副作用で生まれた、キミのシャドウだけどね」
     そう言いながら、悪魔はアルトの胸の、色づいた部分を吸い上げた。
    「はンッ!」
    「ここで。この『精神の行き止まり』で、キミのされたいこと永遠にしててあげるから。キミの現実の身体は、オレにちょうだい。いいでしょ?」
     悪魔はアルトの髪をつかんで中腰にさせ、自分を無理矢理咥えさせた。
    「んっ……、ん……ッ!」
     喉の奥を突かれたためか、ずっと精神攻撃を受けているためか、ぽろぽろ涙を流すアルトに、悪魔が無邪気に言う。
    「あ、そかそか。咥えるだけじゃ物足りないんだよね。じゃ、とっておき」
     悪魔の『とっておき』は、いつの間にか後ろに現れたようだ。気配がする。
     そしてその存在は、後ろからアルトを侵し始めた。
    「ふ……! ぅ……ッ!」
     挿れられた瞬間。
     『とっておき』は声も上げないのに、アルトには誰だかわかってしまった。
     アルフレッドだ。
     しかし、こんなところにアルフレッドがいるはずもない。
     これはダミー。偽物だ。
    「あ、もしかして、判った? さっすがアルト! 毎日気持ちよくさせられてる形は忘れないか!」
     こんなのってない。
     ない、はずなのに。
     アルトの先端からは、透明な液体がとろとろと糸を引いて零れ落ちた。
     アルトの中にある『とっておき』の塊が責め立てるたび、糸がキラキラ光って散る。
     そして、何回目かに昂まりを打ち付けられた瞬間。
    「ッッ!」
     アルトは絶叫と共に、大量の飛沫を散らして果てた。
    「やっぱり、アルトはとてつもなくいやらしいんだね。アルフレッドにもよく言われてるよね。まあ、あの子は、自分がそういう風に育てたんだって思ってるけど」
     悪魔の視線が一気に冷たくなった。
    「キミが生まれつき、どうしようもなくいやらしいだけだよ。アルフレッドのせいにするな」
     悪魔がアルトの口内に大量の精を放ち、アルトを解放した。
     立ち上がった悪魔は完全に褪めた目で、咳き込むアルトを見下ろす。
    「へー。そんなに咳き込んでるのに、何も吐き出さないってことは全部飲んだんだ?」
     そう言われて、アルトは力のない目で悪魔をぼんやりと見上げた。
    「すっごいね。キミ、誰のでも飲んじゃうんだ。ある意味尊敬しちゃうな。真似したくはないけど」
     そうして、満足そうに悪魔が笑い、合図を出した。
     それを見て『とっておき』はアルトを抱き寄せて、再び中を侵し始める。
    「やッ……! あぁッ!」
     侵す、という言い方は語弊があるかもしれない。
     この存在は、とろけるような、慈しむような愛し方をしてくる。
    「ん……ッ、は、」
     なんて気持ちがいいんだろう。
     少し乱暴で、アルトの身体に負担をかけがちなアルフレッドとは明らかに違う。
     悪魔は再び優しい声で、アルトに持ちかける。
    「現実の身体をオレにくれるなら、そのアルフレッドを何人も用意してあげる。ねっ。ここにいるのって悪くないと思わない?」
     『とっておき』が、アルトに頬を寄せる。
     そして、愛おしそうに目を細めて、こんなことを言ってのけた。
    「愛してる。大好きだよ、アルト」
     確かに、アルフレッドの声だ。
     少し高めで、透きとおっていて、大きいわけではないがよく通る、聴きなれた弟の声。
     何よりも魅力的だと感じてしまったのは……。
     とても優しい言い方で、気持ちがいいだけの抱き方で、こうやって愛を囁いてくれたことだった。
    「そのアルフレッドは、キミが望んだとおりにしか動かない。望んでるんでしょ、彼に愛を囁かれながら、めちゃくちゃにされ続けること」
     望んでいる。確かにそうかもしれない。快楽で真っ白になりかけている頭でぼんやりと思う。
     そうだ。
     俺は、アルフレッドが好きだ。
     それは認めなければいけないだろう。
     かつてはどうしようもなく愛した相手だ。
     自分の感情から『愛』が欠如してからは、その感情を執着で補って、彼を縛り続けた。
     自分たちの過去を知って、彼をどうしようもなく責めて。
     そんなひどいことをしたのに、そんなひどいことをされた過去があるのに、嫌いになりきれない。
     いや、好きでい続けている。
     だから、この偽物のアルフレッドは、自分に愛を囁いてくれるのだ。
     しかし……
     俺は、穢れすぎている。
    「……キレイだ。いい子だね、アルト」
     アルフレッドの手が、アルトの下腹部に伸びる。
     彼が指の腹でアルトの先端を弄ると、くちゅくちゅという音が響いた。
    「あんっ……。あ、ッ……!」
    「だからさ、叶えてあげるよ。そのアルフレッドはキミを傷つけることなんてしないし、キミを束縛したりしない。永遠に快楽を与えてくれるだけの存在になってくれる。キミはオレに一言言ってくれるだけでいいんだよ。『ずっとここにいます』って」
     ここにいれば。
     もう、これ以上、傷つくこともないのかもしれない。
     ずっとずっと、この優しいだけのアルフレッドと、何も考えずに、気持ちいいことだけできる。
     それは素晴らしく魅力的な誘いだった。
     身体を売った。アルトにとって、それ自体が嫌だったことは事実だ。
     だが、父親が与えてくる快楽も、村の男たちが与えてくる快楽も、嫌ではなかった。
     そんな言い方をすれば、またこの悪魔に指摘されるだろう。
     そうだ。
     むしろ好きだったし、気持ちがよかった。
     みんな大人で、遊び慣れていたのだろう。だから、気持ちがよかったのかもしれない。そう言うのは簡単だ。でも、そうじゃない。
     悪魔が知らなかった……いや、あえて言わなかっただろう事実。
     それは、アルトが客を取らない日は、父親を誘惑したことすらあったということ。
     そうして、自分が誘った父親に抱かれている時、彼はとてつもなく幸せを感じていた。
     村の男たちをも誘惑して、金を取らないで抱かれたことだって数えきれない。
     俺が生まれつき、性にだらしがなくて、淫らなだけなんだ。
     あんなに一途に想ってくれるアルフレッドに、ふさわしく、ない。
    「いいんだよ、アルト」
     アルフレッドが首筋に口づける。
    「どんなキミでも、愛しているから」
     アルトの中で、何かが音を立てて崩れた。
     ああ。
     このアルフレッドに愛されれば、俺はもうそれでいい。
     現実のアルフレッドを穢さなくて済む。自分も傷つかないで済む。
     ずっと、ここにいよう。
    「……『ずっと』」
     アルトは俯き、震える声で宣言し始めた。
     悪魔は優しい顔を崩して、意地が悪そうな笑みを浮かべる。
    「『ずっと』?」
     ごめんなさい。
     生まれてきて、ごめんなさい。
     アルトは心の中で、何度も何度も誰にともなく謝っていた。
    「……『ここに』」
     アルフレッド、ルアム。
     好きになってくれて、ありがとう。
     リノ。
     迎えに行けない。ごめん。
    「『ここに』?」
     でも、俺は、もう戻らない。戻れないよ。
     こんなに自分が穢れていることを知って、どんな顔をしてみんなに会えばいい?
     アルトの唇が、最後の宣言をしようと動く。
     その時、アルフレッドが、彼をぎゅっと抱きしめて、こう言った。
    「ありがとうアルト。愛してる。ボクと永遠に、ここにいよう」
    「……」
     宣言が止まる。
     悪魔はいかにもイライラした様子で、アルトに話しかけた。
    「なにやってんの? 早く全部言いなよ。みんなのことなら、心配いらないから。オレもキミだし、うまくやってあげる。リノは助け出してあげるし、アルフレッドとルアムも満足できる『アルト・ヴァレル・レインスター』を演じてあげるよ。まあ、アルフレッドとルアムには手出すけど、あの二人は『アルト』が好きなんだから、文句ないよね?」
     アルトがゆっくりと顔を上げる。
    「……は、ははは……っ」
     呆れたような笑いを浮かべて、アルトは後ろのアルフレッド……いや、悪魔の『とっておき』を見た。
    「よく似た偽物だな……お前」
    「ボクは偽物なんかじゃないよ」
     そう言って気分を害したようにする『とっておき』に、アルトは首を振った。
    「お前、一つだけ決定的に違うんだ」
     悲しそうな笑顔で、アルトが指摘する。
    「アルの一人称は『ボク』じゃなくて『僕』だ。共通語でも、エジャニーム語でも、喋り方がもっとなめらかで、綺麗な響きなんだよ。俺が一番、アイツの声で気に入っている言葉だから、すごく目立つ」
     瞬間、『とっておき』がガスのように溶けて消えた。
     悪魔……シャドウが、怒りをあらわにする。
    「もうちょっとだったのに……!」
     アルトがゆっくりと立ち上がって、彼を見据えた。
    「俺は、穢れてる」
     その言葉に、シャドウがふん、と鼻を鳴らした。
    「それがどうしたのさ。そんなのはオレが一番よく知ってるよ」
    「でも、だからって、アルが俺のことを諦める理由にはならないかもしれない」
     アルトの言葉に、諦めきれないシャドウは噛みついてきた。
    「充分だろ! オレがアルフレッドだったら、そんな相手は選ばない!」
    「選ぶか選ばないかは『俺』と対峙して、アルが決めることだ。俺にもお前にも、決められないことだと思う」
     それに。
     アルトは少しだけ笑う。
    「俺やっぱり、アイツのこと好きなんだ。どうしようもなく、好きなんだよ。諦めきれないし、俺とお前が同じ人間だとしても、お前にも渡したくない。お前には悪いけど。俺、すごく嫉妬深い男なんだ」
     一瞬、シャドウがきょとんとして、アルトを見た。
     そして、
    「あははははっ!」
     彼は底抜けに明るい声で笑い始めた。
     その声に面食らって、アルトが思わず一歩後ろに下がる。
     散々笑ったシャドウは、目に浮かべた涙を人差し指で拭うと、肩で息をした。
    「知ってた! だってオレもそうだもん!」
     あーあ。シャドウが頭の後ろで腕を組む。
    「乗っ取り失敗かー。まあ、成功するなんてこれっぽっちも思ってなかったけど」
     シャドウはそう言ってから、アルトに近づいて、また抱きついた。
    「ちょ、待てって……」
    「もう別になにもしないよ。強いて言うなら、一つに戻るだけ」
     少し寂しさが残る声で、シャドウが呟いた。
    「キミにとってはあまり信じたくない話だろうけど……オレがオリジナルの『アルト』なんだ」
     シャドウの言葉は、アルトには腑に落ちた。
     自分がシャドウであることは、先程から薄々感づいてもいた。
     アルフレッドの魔術はあまりに未熟なのに、記憶を思い出せない理由は、多分そこにあったのだろう。
    「それなのに、アルフレッドはキミのことばかり好きになって、キミの奥底に閉じ込められたオレの存在すら知らない。寂しくて寂しくてしょうがなかったんだ。だって、アイツがオレを二つに分裂させたのに」
     もう、嫌な感じはしなかった。
     アルトがシャドウを抱きしめる。
    「……もう一度会って、殴ってやりたかった。バカヤロウ、って。ホントは、それだけ」
     シャドウが少し背伸びをして、アルトに口づけた。
    「記憶がほぼ戻った今なら、キミと一つに戻れる」
    「俺が吸収される道もあるんだぞ?」
     馬鹿だなあ。シャドウが言う。
    「オリジナルはオレかもしれないけど。もう、『アルト』はキミなんだ。ただそれだけのことだよ」
     シャドウが白い発光体になって、アルトの身体を包み込む。
    「それに、元に戻るだけだから。たしかにオレは消えるけど、別に怖くないよ」
     記憶や感覚と共に、シャドウの最後の言葉が流れ込んだ。
    「……バイバイ。もう一人のオレ」
    「任せろ。アルのこと殴っておく」
     アルトはその場で頷いて、現実への出口を探し始めた。

     ********

     アルトが目を開けると、ひどく表情が暗いアルフレッドが、虚ろな目をして座っていた。
    「ひっどい顔……してるな……」
     低い声と同時に、頬を触られて、アルフレッドの意識はアルトに向いた。
    「アル、ト」
     目を覚ました兄の顔は、スッキリとした表情だった。
     ああ、やっぱりアルト『くん』は、何を考えてるかわからないな。
     アルフレッドは複雑な思いを胸に抱いていた。
     なんでこんなに、スッキリとした顔していられるのさ。
    「キミは……。キミって、本当に、判らない子……だなあ……」
     アルフレッドが独り言のように言う。
    「なんで、怒らないの?」
     訊くアルフレッドに、アルトが不思議そうに尋ね返す。
    「なにに?」
    「……いろいろ」
     叱られたあとの子犬のような顔をした弟の頭上に、アルトはそっと手を伸ばした。
    「じゃあ、一つだけ」
     そう言われて、アルフレッドは目を固く閉じた。
    「ヒトの記憶、勝手にイジるな。おかげでひどい思いをした」
     アルトは彼の額を指で弾く。
     そして、
     『アルト』。約束、果たしたぞ。
     そう心の中で呟いた。
    「あ。多分最後だから、思い出としてさせてもらうけど、悪く思うなよ」
     アルトはそう宣言して起き上がり、アルフレッドに口づけた。
    「んッ?」
     どうしてだろう、と目を白黒させていたアルフレッドに、唇を離したアルトが目を細める。
    「過去の『俺』なら、お前のこと嫌うよ」
     その言葉はアルフレッドの心にチクリと刺さった。
     しかし、兄は続ける。
    「だけど、今のオレはいろんな『オレ』も『俺』も経験してきたから。お前が、キミが、どんなにオレを守ってくれたか、大切にしてくれたかも知ってるから」
     だからもう、いいんだ。
     そう言って、アルトが少し笑う。
     今なら向き合える。
     さっきのことだって、謝れる。
    「さっきはごめん」
    「ううん! だってほら、僕がキミにいろいろしてたの事実だし! 恨まれて当然っていうか!」
     アルトはその言葉を聞いて、少しだけ俯いた。
    「オレさ……」
     彼はすべてを話すことにした。
     アルフレッドと肌を重ねてから、秘かに自分を慰めていたこと。身体を売っていた時、父親に抱かれていた時、ひどく悦びを感じたときがあったこと。父親や村の男を誘惑したときもあったこと。そんな風に自らも望んで不特定多数に身体を委ねていたこともあったのに、考えるのはアルフレッドとの契りだったこと。そして、『アルト』のこと。
     アルフレッドはたまに首を振るだけの相槌に留め、静かに聞いていた。
    「……まあ、そういうわけでごめん。お前の兄さん、ろくでもない男なんだわ」
     アルトが力なく笑う。
    「他人にひどい当たり散らし方するし、誰にでも股開くような奴だし。さすがにこれで嫌いになっただろ?」
     っつー訳で、今日限りで別々に寝ような。
     そう言って、アルトがベッドから離れようとする。
     それを、
    「そんなことないッ!」
     アルフレッドは自分でも驚くくらいに大きな声を出して否定した。
    「僕は……、僕は……ッ」
     ポロポロと涙が溢れるのを、アルフレッドには止められそうになかった。こんなに泣いたのは、何年ぶりだろうか。
    「どんなキミでも、いいんだ。キミが欲しいんだよ……」
     アルフレッドは自分の兄にギュッと抱きついた。
    「キミが、好きなんだ……。キミじゃなきゃ……『アルト・ヴァレル・レインスター』じゃなきゃ、僕は嫌だ……」
     その言葉を聞きながら、弟の髪を撫でるアルト。
     アルフレッドは優しい手つきの彼をそのまま押し倒した。
    「あのな……オレ……」
     アルトが諌めるようにすると、
    「するの、やだ?」
     と、アルフレッドが涙目のまま訊いてきた。
    「……お前、嫌じゃないのか……?」
    「全然。むしろ、僕以外でイけなくなるまで僕を覚え込ませる楽しみができたけど?」
     答えて、深く深く口づけてくるアルフレッド。その口づけはちょっと苦かった。
    「隠れてタバコ吸うの、やめろよ」
     アルトが言うと、弟はイタズラがバレた少年のような顔をした。
    「匂いには気をつけてたんだけど」
    「匂いじゃなくて、味。苦くて不味い」
     もう一度口づけるのを拒否されて、アルフレッドは不満そうに顔をしかめた。
    「キスさせてよ」
    「禁煙に成功したらいくらでもな」
     キミは甘いから好きなんだけどな。
     そんなふうに言い、アルフレッドは兄の首筋に歯を立てた。
     彼らエジャン人は有り体に言えば『吸血鬼』だ。ただ、吸うのはパートナーの血液だけだし、血液を摂取しなかったからといって死ぬことはない。彼らの唾液には催淫作用があるため、それを吸血時に相手の体内に取り込ませているだけだ。
    「ば、か……ッ。ただでさえ……そういう気分な、のに……」
    「許して。我慢出来ないんだよ」
     血を飲んだアルフレッドが、はぁっと息を吐いた。熱い吐息が耳にかかり、アルトの背筋に電流のようなものが走る。
    「んッ……」
    「やっと手に入りそうなのが嬉しくて。嬉しくて嬉しくて。死んじゃいそうだ」
     死ぬなよ。
     アルトはそうぼやいて、彼の身体に腕を回す。
     大きな背中だ。
     そんなことを思いつつ、アルトは弟に身体を委ねた。

     ********

     ギシッ、とベッドがきしむたびに、アルトの最奥をアルフレッドが貫いた。
    「あぅ……ッ」
     やっぱり、痛い。
     アルトは息を弾ませながら、アルフレッドに話しかける。
    「そ、そこまで挿れられたら……ッ、い、痛……ッ、」
     アルフレッドは申し訳なさそうに少し腰を浮かせた。
    「これでも……半分も挿れてないんだけど……」
    「え……っ」
     アルトが恐る恐る訊く。
    「いつも……じゃ、ないよな?」
    「うん。さすがにいつもは半分以上挿れられるんだけど……。今日は……その。すごく、興奮しちゃって……おっきい……みたい……」
     アルフレッドは、兄から身体を離して、その肢体を観た。
     少し日焼けはしているが、きめが細かくて本当に綺麗な肌だ。
     堪らなくなって、さっきまで肌を何度も啄んでいたが、それが花が散った痕かのようにも見える。元々色づいている部分も色素が薄く、花のつぼみのようだ。
     アルトを蝕む憎らしい淫紋も、飾りとして見るならば綺麗だ。
     アルフレッドは、淫紋を指でなぞる。
    「ひゃ……あ、っ」
     声を上げたアルトの胸の、蕾のような膨らみに、弟は軽く歯を立てた。そこは歯を立てる前から膨らんでいて、アルトがいかに興奮しているかは見て取れた。
    「キミも……興奮してるんだね……。嬉しいよ」
     アルトはぴくんと震えて快楽を享受する。
     もっと。
     もっとしてもらいたい。
    「もっ……とォ……」
     アルトは頬を赤らめて、小さい唇から赤い舌をちらっと出し、弟を誘ってみた。
     困ったのは、誘われた弟だ。
     やっとのことで理性を保てているのに。この小悪魔は、僕を野獣にする気なんだろうか。
    「そんな可愛い仕草しないでよ……。やっとのことで抑えてるのに……」
     アルフレッドは手で、兄の胸にある片方の尖りを擦り、もう片方の尖りを唇を尖らせて啄んだ。
    「ぁ、イイ……っ。は、ん……っ。アル……ぅ」
     アルトが吐息と共に高い掠れた声を出した。
     滾りきったアルトの先端から、糸を引いて液体がこぼれる。下腹部が濡れたことは、彼はまだ気づいていないらしい。
     アルフレッドはそれを指先で掬って、アルトに見せた。
    「……なに、それ?」
     弟は、兄に分かるように、親指も使ってその液体を伸ばす。粘着質なそれは、二本の指の間に橋を架け、とろりと落ちた。
    「アルトのえっち。こぼれたことにも気づかないなんて」
     アルフレッドはそう言って、その液体を自らの口に含み、音を立てて味わった。
    「う、そ……?」
     さっきまであんなに誘っていたのに、まるで未経験な人間のように恥ずかしがるアルト。だが、相変わらず興奮はしているらしく、先端からはずっと溢れ出たままだ。
    「恥ずかしがってるけど、本当にキミって、自分で言ってる通り淫乱なんだね……」
    「やっ……。み、見るなよ……ぉ」
     無理。
     アルフレッドはそう言って液体をもう一度指にまとわせ、胸の尖りをこりこりと刺激してそれを塗りつける。
     気持ちいいのだろう。尖りに触れられている間、アルトは何度も何度もうわごとのように、弟の愛称を呼ぶ。
    「アル……。アル、ぅ。アルぅ……。ア、ル……ぅ」
     本人は、名前を呼ぶだけで弟を誘惑していることに気付いてないのだろう。
     何度も呼ばれて、痺れる頭で、アルフレッドは思う。
     パパと同じような声なのに。なんでこんなに甘くって、気持ちいいんだろう。
     アルフレッドは、胸の尖りに入っている筋を、爪で軽くひっかいた。あんまりにも自分を誘惑する兄に、ほんのちょっとだけ、お仕置きをするために。
    「あんっ!」
     お仕置きのはずだったそれは、アルトにはご褒美だったようだ。彼は大きく仰け反って、甘い息と共にみっともない喘ぎ声をあげる。
     ダメだ。
     もう、我慢できない。
    「ごめん」
     アルフレッドが最後の理性で謝り、ぐ……と腰を沈める。さっきまで痛がっていた位置。そこまで、するりと潜り込めてしまった。
    「ふぁっ……。なん、で……? すごい、キモチイイ、よぉ……」
     とろりとした声でそんなことを言うものだから、余計に色っぽい。
     アルトの外見は10歳そこそこで成長が止まっている。本来ならば、色っぽさなんていうものとは無縁のはずだ。
     アルフレッドも、10歳そこそこの外見に興奮するなんて自分は異常なのではないかと悩んだことがあった。
     だが、すぐに思い直した。なぜならば、それくらいの外見の人間でも、アルト以外に性的魅力を感じたことがなかったからだ。
     ルアムに訊いたところ、ルアムもアルトくらいの外見年齢で魅力を感じたのはアルトだけだという。
     要するに、アルトは誰が見ても妙に魅力的なのだろう。その分、ライバルが多くて困っていたのだが。
     ……だけどもう、僕のものだ。
    「ねえ。アルトの声で、いやらしい言葉が聞きたい。されたいこと、言って」
     そんな風に言う自分は意地悪だろうか。アルフレッドが少し罪悪感を覚えた。
     さっきから、アルトは腰を小刻みに上下させている。多分、欲しいのだ。どんな言葉を言うのか、大体想像はついている。
     ……僕だけに、どうしようもなくいやらしい言葉で、どうしようもなく淫らな格好で、ねだれ。
     アルトが頬を染めて、視線を漂わせ、形のいい唇を恥ずかしそうに弄りながら、吐息と共にねだり始めた。
    「……お、く……ぅ……。ジンジンしてて……。イき、たい……。めちゃくちゃに……されたい……。アルの、おっきくなったそれ……全部……挿れて……ほしいな……」
     言い終わった瞬間、アルトの後孔が、受け入れている弟をより味わうかのように締まった。中も蠢いていて、快楽を余さず受け入れようとしている。
    「は、っ……。ちょ……。ちょっと、アルト……」
     アルトの中の、あまりの気持ちよさに、アルフレッドの半開きにしていた口からしずくが落ちた。
     ……情けないなぁ、僕。こういうことくらい、アルトをリードできたらいいのに。
     そんなことを思いながら、さらに腰を落とす。
     全部挿れたことはあまりない。アルトの身体は小さくて、それをするのにはいささか抵抗があった。
     だけど、今日は無理だ。
     こんなに可愛いアルトなんて、初めて見た。ましてや、全部、というのは言わせたとはいえ、アルトから言っている。
    「う、っ……あ……ぁ」
    「……痛い?」
     痛いと言われても止めることは多分できないが、一応、兄に訊いてみる。
     もっとも、杞憂だったことはすぐに分かった。彼は焦点が合わない瞳で天井を見つめながらも、反射のように腰を動かしていた。その動きはさっきより激しくて、まだ欲しがっているのが見て取れる。
    「は、っ……。ぁん……。あ……っ……。あっ、あっ……」
     嬌声を紡ぎ続ける唇は、まるで紅を引いたかのように紅い。
     ……アルトって、こんな子だったんだ。
     アルフレッドは彼の唇をなぞる。
     今まで、アルトのことは、抱けばそれなりに乗ってくれるが、そういうことが嫌いな子だと思い込んでいた。自分から動くことだってするし、頼めば誘惑してくれる。けれど、頼まないとダメなんだと思っていた。
     でも。
     彼がさっき言ったとおり、どうしようもなく性に奔放なのが、本来のアルトなのだろう。しかも、目覚めさせたそもそものきっかけは自分だ。
     ……もっと……もっとだ。
     もっと……見たい……。
     腰を一気に沈める。
     最後まで入って、アルフレッドはため息をついた。未踏の場所はあまりに気持ち良すぎる。暴発しそうな自分を抑えて、彼はそっと腰を浮かせ始めた。
     その途端、アルトが快楽に身体を跳ねさせて叫んだ。
    「んっ! あっ。うごく、なぁ……っ!」
     最奥がきゅっと締まって、アルフレッドを押し出してきた。
     押し出された瞬間、アルフレッドが我慢できずに精を放つ。
    「……ぅ……うっ」
     アルトもほぼ同時に達してしまったらしく、痙攣したように身体を震わせた。虚ろな目はどこも見ていないし、開いた口からはだらしなく糸が引いている。
     アルフレッドの放った精は、かなりの量があった。アルトの全身にかかってしまったらしく、飛沫は髪の毛をも濡らしている。白濁液まみれの兄の淫らな姿に、アルフレッドは思わず生唾を呑んだ。
     下腹部と胸の辺りに散った液体の多くは本人のものだろうが、多分アルフレッドのものも混じっている。その事実は、アルフレッドを興奮させるに充分だった。
    「ア、ルト……」
     白濁に汚された下腹部に舌を這わせ、それを舐め取る。濃い雄の匂いが、口の中に広がった。
     ……アルトと、僕の……混じった、味……。
     そう思いながら、口の中に含んだそれを、くちゅくちゅと音を立てて味わう。
     アルトはその音だけで快楽を感じてしまうらしい。アルフレッドは自分の下にいる、アルトの下腹部がびくついて精を放ったのが分かった。アルトの精はアルフレッドの下腹部にもかかり、とろりと垂れる。
    「ふふっ……。気持ちいいの? こんなので?」
     虚ろな目をした兄を少し虐めてみたくなった。意地悪をしたらこの子は、どんな反応をするだろう。
     アルフレッドはアルトの視界に入り、自分の舌を見せた。泡立った精液が、赤い舌に乗っかっている。
    「二人の、だよ。とっても、美味しい……」
     すると、アルトは頬を赤くして、目を潤ませた。
    「ずる、い……。オレ、にも……ぉ」
     ダルそうな身体を持ち上げて、アルトはアルフレッドに口づけた。舌を入れて、アルフレッドが味わっていたものを横取りする。
     アルトは唇を離すと、弟がしたように音を立ててそれを味わい、こくんと飲んだ。
    「は、ぁ……。えっちな、味……する……。おい、し……」
     とろんとした目で呟くアルトは、ひどく性的だった。
     ダメだ。今日はもう、この子が気絶してもやめられる自信がない。
     アルフレッドは体勢を変えて、もう一度アルトを愛撫し始めた。深く口づけて、まだ精の味が残る舌を吸う。
    「にが、」
     タバコの味を言っているのだろう。禁煙しよう。アルフレッドが強く思う。
     アルトを四つん這いにし、後ろを向かせる。アルフレッドは、後ろから覆いかぶさって、胸の色づいているところを責めた。
    「ひ、ぁ!」
     ……かわいい。かわいすぎる。
     アルフレッドはそのまま、アルトの後孔に自らを挿入する。
     先程のように、最後まで挿れ、今度は逃げられないように腰のあたりを掴んで抽挿を始める。
     ぐっ、と挿れて、ゆっくり抜くのを繰り返す。その度、ぱちゅ、ぱちゅ……と、卑猥な音がベットルームに響く。
    「あん、あっ……。は、あんっ……あんっ……」
     それと同時に、とぎれとぎれで苦しげなアルトの甘い声も。
     その声を聞いて、アルフレッドはだんだんと抽挿を早くさせる。
    「や、っ……。ア、ルぅ……。ダメっ……! また……ぁ……。また、イッちゃう……イッちゃう、のぉ」
     ベッドフレームに手をかけた涙目のアルトが、振り返りざま弟に訴えた。
     それを見て、アルフレッドは背筋に電流が走ったような気がした。
     ……甘えてる。アルトが。僕に。
     抽挿を続けながら、アルフレッドが優しい声で訊く。
    「イッちゃうの、イヤなの?」
     こくん、と頷いて、兄がグスグスと鼻を鳴らす。
    「どうして? かわいいアルト、見たいな」
    「……嫌われる……」
     アルフレッドは腰を打ちつけてアルトを抱き寄せると、その耳を食んだ。
    「でも僕、キミが果てるところなんてほぼ毎日見てるし」
    「だってオレ……もう、こんなに……なってて……」
     アルフレッドはふと先端に意識を集中させた。アルトの中は今まで感じたことがないくらいとろとろに溶けていて、もうすでに自分との境目がわからなくなっている。
    「……こんなに……こんなに気持ちいいなんて……」
     アルトの足がガクガクと震えていることに気づいたアルフレッドは、アルトを支えて覗き込んだ。ベッドフレームが、大量の飛沫で濡れている。彼の下半身を見ると、今も細かく精を吐いているところだった。
    「あの、さ。ベッドフレー……」
    「言うなぁっ! 言わないでぇっ!」
     アルトの絶叫は涙声だった。
    「ごめんなさい……! えっちな子でごめんなさい……! 嫌わないで……! 嫌だ……!」
     懇願するアルトを見て、アルフレッドは抽挿を再開した。
    「は、ッ……、ヤダ……。嫌わないで……。ごめんなさい……。違う、オレ……」
     逃げようとするアルトの腰に腕を回し、無理矢理抱きしめながら腰を打ちつけるアルフレッド。もがく兄の耳元で、そっと囁いたのは、彼に対する褒め言葉だった。
    「キレイだ……。ステキだよ、アルト。なんてかわいいんだ。大丈夫、誰もキミのこと嫌いになんてならないよ」
     頬に口づけながら、抽挿を早くする。
    「は、ッ。アルト……。かわいいよ。えっちなところも、とってもかわいい。もっと、えっちなところが見たい……。ぅ、あ」
     アルフレッドが低く呻いて、アルトの中に精を出した。全部出し終わったのを確認してから、アルトの後孔から自身を引き抜く。とぷん……と音がして、その孔から大量の白濁が垂れ、アルトの内股を濡らした。
    「あ」
     内股を汚した液体が気持ちよかったのだろう。アルトはまた、飛沫を散らしてその場に崩れ落ちた。
     アルフレッドがベッドのフチに座り、アルトを見る。アルトは息を整えながら、弟を見つめ返した。
    「おいで。もっと愛し合おう」
     アルトは誘われるまま、アルフレッドと向かい合い、彼の膝に乗っかった。弟の、勃ちっぱなしの中心をそっと後孔に宛てがい、そのまま腰を沈める。
    「アルト。僕のことは考えないで、好きに動いていいよ。キミが気持ちいいようにして」
     アルトは言われたとおり、自分の気持ちのいいように動き始めた。中にある、コリコリとした部分にアルフレッドの先端を何度も擦り付ける。とろとろに溶けた後孔はきゅんっと締まって、弟を味わい、その精をせがむ。
    「アルト。そんなにせがまなくても、いっぱい出してあげるから待って」
     休むことなく、腰を艶めかしく動かし、細かく声を上げている兄を、アルフレッドが突きあげる。それに耐えられず、アルトが悲鳴のような声をあげた。
    「アル、ぅ……」
     恨めしそうに弟を睨むアルトだが、腰を動かすことも、細かく声を上げることもやめてはいない。それを見て、アルフレッドはもう一度突き上げた。
    「ぁぐ、」
    「気持ちいい?」
    「気持ち、い……、は、ン」
     アルトは腰の動きを強くし始めた。ぐちゅ、ちゅ、と結合部分からいやらしい音が聞こえる。
    「ほら、ちゃんとしないと、もっと気持ちよくなれないよ?」
     アルフレッドは、アルトの中を少し探り、コリコリとした部分を見つけると、そこを執拗に責め始めた。
     先程から、自分の先端が、アルトの中のその部分によく当たるのは気づいていた。そして、そこが彼の、一番気持ちいい部分だとも。
     なら、気持ちよくなるために手伝ってあげよう。これは、単なる親切心だ。そう、親切心。
    「ああッ! あんっ、あ!」
     かわいい喘ぎ声を出して、アルトがよがる。そんなふうによがりながらも、彼は腰を動かすのをやめない。
     アルフレッドは彼の弱点を責めながら、かわいらしく快楽を貪る兄をまじまじと見た。両方の胸の尖りは勃ちあがりっぱなしで、色が若干濃く変わっている。彼の中心は、何度も吐いた精が滴り、張り詰め過ぎて痛そうだ。そして、二人分の白濁を浴びた胴は、元々病的に色っぽい身体を、さらに魅力的に見せていた。
    「アルぅッ! はンッ……、あ、イくッ……イっちゃうッ……! やだぁっ、見ないで……」
     いつの間にか上り詰めていたアルトは、アルフレッドに果てる自分を見せまいと視界を塞ごうとする。アルフレッドはその両腕を掴み、果てようとする彼の全身を舐め回すように見て、最後のトドメにと、アルトの一番お気に入りの部分に向かって突き上げた。
    「!」
     声をあげて、アルトがぐったりと倒れ込む。アルフレッドは兄が怪我をしないように、そっと支えた。
     アルトの後孔が、アルフレッド自身を痛いほど締め付けている。同時に、張り詰めて痛そうだった先端から、大量の精がどぷり、と溢れ出た。
     激しく痙攣する兄の身体を、アルフレッドが指でなぞる。首、胸、脇腹……そして、まだ液体を吐き出している先端。触るたび、半分意識を手放している兄の身体は大きく跳ねて、小さい悲鳴が上がる。
     アルフレッドは兄と繋がったまま、体位を変えてベッドに倒れ込む。アルトを組み敷くと、細い足首を掴み、ひたすらに腰を振ってその後孔を侵す。もう意識がないのだろうが、コリコリとした部分を責め立てるたび、小さく悦びに満ちた声をあげる兄は、本当に淫らでいやらしい男だと思う。
     これじゃあ、自慰行為だ。思うが、それでもアルトの中に出したかった。
     僕のものだ。
     アルトは、僕のものだ。
     その印を、彼の中に深く深く刻みつける。
    「アルト……ッ! ぁ、はあっ……!」
     全身を走る快楽と共に、アルフレッドはアルトの中で大量に精を放出した。
    「っ……!」
     意識を手放しているはずのアルトは、快楽から逃れようとして首を振った。だが、逃げられるはずもなく、何度か身体を跳ねさせる。
     アルフレッドはアルトをまだ解放せず、もう一度腰を振りはじめた。精液と分泌液でとろとろの中を半ば力任せに侵す。アルトの後孔のヒダは侵入者にまとわりつき、また、その精を求めた。
    「ふふっ……。かわいいな」
     何度も精を吐いたせいか、もう出るものはないものの、凄まじい快楽だけは得られた。
    「ごめんね、アルト。もうちょっとだけ、キミの身体を味わいたいから借りるね」
     アルフレッドは本能の赴くままに、アルトに昂りを打ちつけ続ける。
     その後アルトの身体を使い、幾度となく一人きりの悦びを貪ってから、アルトを解放したアルフレッドは、彼の身体を綺麗に拭いてやり、彼にキスを落とした。

     ********

     ルアムは、双子がリビングに戻ってきたのを視認すると、ため息をついた。
    「アルフレッド。仲がいいのはかまわないが、あまりアルトに負担をかけるな」
     アルフレッドが首を傾ぐと、ルアムが「声」と短く言った。
     それでも分かっていない様子の双子に、ルアムは率直に言う。
    「喘ぎ声、家中に響いてたぞ。かわいい声を聞かされて、どうにかなりそうだ」
     アルフレッドはすぐに理解したようだったが、言われた意味は、アルトの脳に届くまで時間がかかったらしい。
     しばらくぼーっとしていたアルトだったが、ようやく理解すると、隠れるようにアルフレッドの後ろに回る。
     アルフレッドはそんな兄をそっと撫でて、ルアムに向き直り、勝ち誇ったように笑った。
    「いいでしょ。喘ぎ声はおすそわけだよ」
    「ちょっと、アル……!」
     アルトが咎めると、アルフレッドは後ろ手でアルトを撫でる。
    「なぁに、アルト。どうせなら見せつけたいのかな?」
    「んなわけないだろっ!」
    「えー……。僕は構わないんだけどなー」
    「オレが構うんだよ!」
     二人の痴話げんかを聞きながら、ルアムがため息をついた。
    「まあ、アルトが元気になったようでよかった。これで紋様もしばらく抑えられるだろうしな」
     その言葉に、アルトが真っ赤になってルアムを見た。
    「……聞こえてたんだろ……? オレの……」
     ルアムはこともなげに「ああ」と返す。
    「嫌いに……なった?」
    「なぜ?」
     問われて、アルトは下を向いた。
     話せない。ルアムには、話したくない。
     その様子から何かを汲み取ったのか、ルアムは言葉を選んで話し始めた。
    「何がどうあれ、私は、お前のことが好きだ。お前は何かを心配しているようだし、隠してもいるようだが、そんなことは私にとって、どうせ大したことないものだ。それくらいで嫌いになるくらいだったら、世界中追いかける真似はしないかな」
     ほらね。アルフレッドがアルトを見る。
    「キミには判らないかもしれないけど、『愛する』って、そういうものだよ」
     さて。
     アルフレッドが二人に向き直った。
    「明日のことを話し合おうか」
     二人を席につかせ、アルフレッドが飲み物を用意しはじめた。
     ビオトープは日夜の寒暖差が激しい。ゆえに、今の時間帯は暖かい飲み物のほうがいい。
    「……お前、そんなに手際よかったっけ」
     用意している弟を見て、アルトが呟いた。
    「本当はね。キミの作ったレシピ集も持ってるから、美味しいごはんも作れるよ」
     そんなに思い出してほしくなかったのか。
     アルトは罪悪感で、ふう、と息を吐いた。
     お待たせ。
     三つ、カップを持って、アルフレッドが席に着く。
    「……あの男は生け捕りにしないとな。アルトの呪いもアイツでなければ解けないだろうし、皇女殿下の行方も吐かせなければ」
     ルアムが神妙な顔をすると、アルトが疑問をぶつける。
    「そんなことより、本当にルアムの小屋に来ると思うか?」
     僕は来ると思う。
     アルフレッドはそう言って、カップを握り締めた。
    「アルト、忘れたの? アイツはそういう男だって。あの男はね、キミを手に入れる為に何でもするよ」
     さっと顔色が蒼くなったアルトを見て、アルフレッドはごめん、と謝り、ココアを勧める。アルトはそれを受け、暖かいココアをすすった。甘味を感じて少し落ち着いたところで、ほっと息を吐く。
     そして、ココアの表面を見ながら、アルトはポツリと言った。
    「……オレが囮になる」
     アルフレッドとルアムが顔を見合わせる。その二人を交互に見て、アルトは懇願した。
    「どのみち、この身体じゃ満足に戦えない。だったら、囮をやらせてくれ」
     アルフレッドは、その悲痛な顔を見て、そっと目を閉じた。
    「考えがあるんだね。分かった、やらせてあげるよ」
     その代わり。
     アルフレッドは目を開けて、真っ直ぐに兄を見た。金色の瞳に、子供の姿の兄が映る。瞳に映ったアルトは、決意の表情でこちらを真っ直ぐに見つめ返していた。
    「絶対に、生きて帰って。キミが死んだら、僕もその場で自害する」
    「分かった。約束する」
     二人は拳を前に出し、コツンとぶつけ合った。
     対決の時は、刻一刻と迫っていた。