【小説】オリジナル/R刻短編/間違い


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「ん?」
シホが冷めてしまったクレープを食べていると、濃紫のさらさらとした髪がちらっと見えた気がした。
ワゴン車の後部ドアを開け、彼女はその人影を追いかける。
ああ、やっぱりアルトくんだ。珍しいな、リノくんと一緒じゃないなんて。
そう思ったが、この前自己紹介し、友達になったばかりの少年に、彼女は話しかけることにした。
「アルトくーん!」
彼が振り返り、不思議そうな顔をしてシホを見つめる。
「ちょっと、アルトくん。なによー、リノくんどうしたの?」
彼はその顔のまま、自分を指差し、えっと、としどろもどろに言い始める。
「僕? あの、人違いじゃ、ないかな」
あれ?
声を聴いた瞬間、シホも人違いに気がついた。
アルトはかなり低い声で、はきはきと喋る。対して、この人物は、少し高めの声で、囁くようにしゃべるのだ。それに、アルトは自分のことを『オレ』と言っていた。『僕』と自分を指す、この人物とは違う。
「あ、ごめんなさい! 間違えちゃった! あまりにも友達に似てたの」
彼はくすっ、と笑い、いえいえ、と手を振る。
「僕に似てるなんて。顔似てるヒトはいたけど、この髪はいないからさ」
「そうなのよね。それに、今気づいたけど、目の色も同じだわ」
「それは。会ってみたいような、みたくないような気がするよ」
「そうよねー。そこまで似てたら不気味だもんね」
シホがつられて笑う。
「お詫びにクレープおごらせて、そこのワゴンの。わたし、従業員なの」
彼女が少年の腕を引っ張って、ワゴンの前に連れて行き、メニューを見せた。
「うわぁ、いいの? 僕、甘いものに目がなくてさ。どれにしようかな」
少年がニコニコしながらメニューを眺める。
「キミのオススメってある?」
「あ、わたし、甘いものちょっと苦手だから、お役に立てないや」
少年はふーん、と言いながら、メニューとシホとを交互に見た。
「あ、これにしようかなー。二月のオススメ! 『フォンダンショコラ』」
好みまでアルトくんそっくりだわ……。シホはそう言いたいのをこらえて、にっこり笑い、ワゴンの後部に入って手を洗い、準備を始めた。
「この辺のヒトじゃないよねー?」
シホがなんとはなしに訊いてみる。
「うん、先月までアメリア国のセントマリアーヌっていう……ほら、海岸沿いのリゾート地あるじゃない、あそこに住んでたんだ」
「へー。わたしはあそこ、軍隊のイメージ強かったな。セント、なんてついてるのに、ね」
それを聞いて、少年が顔を曇らせた。
あ、言っちゃいけないことを言ったのかもしれない。
慌てて前言撤回しようとするシホに、少年は少し寂しそうに笑いながら答えた。
「うん、そうだね……。僕も、今年十八で、徴兵されそうだったから、逃げてきたんだ」
「ごめん。やなこと訊いたかな」
「ううん、気にしないで」
フォンダンショコラが出来上がり、少年に渡すと、少年がかばんから財布を取り出した。
「お金」
「あ、ううん、いいの! ささ、熱いうちに食べてよ。それ、熱いのがおいしいらしいから」
じゃあ。
少年がそそくさと財布をしまい、クレープにかじりつく。
「うわぁ、おいしいなー。キミの手は魔法の手だ!」
無邪気に笑う少年。それを見て、シホはにっこり笑い返した。
「僕、今日からここに通おうかなー。ホント、おいしいよ、このクレープ!」
「残念ながら、そのクレープはヴァレンタイン期間限定なのよー」
そう言うと少年は切なそうに笑って、ぼそりと呟いた。
「……R1に、食べさせてあげたいな」
「……R1って?」
思わず訊き返したシホに、少年はあはは、なんでもない。と笑って否定した。
「ちょっとね。これを初恋の相手に食べさせたら、どんな顔するのかなって思って」
「初恋の相手かぁ。でも、キミ、その子のことまだ好きなんでしょ? 顔に出てる」
はは、お姉さんには丸判りかぁ。少年がにこっと笑った。
「お姉さんに似てたよ。可愛い子だった。でも、きっと、もう会えない」
彼は最後の一口を食べて、泣きそうな笑顔を浮かべた。
「ご馳走さま。また来るよ、お姉さん」
そう言って、少年はワゴンを背にした。
(R1、か……。ずっと、想ってる、のに。もう、会えないのかな)
坂道を登り、公園に差し掛かる。
「だいたいさぁ、お前……」
「だって……」
恋人同士の会話か。くだらない。
少年が声のほうを見た。
ビリジアンブルーの髪が、目に飛び込んでくる。
(……R1!?)
少年が思わず隠れて、様子を伺った。
R1……リノは、少年そっくりな人物……アルトとなにやら楽しげに話をしていた。
R1だ、間違いない。
あそこから、出られたんだ。ああ、幸せそうでよかった。
そうは思ったが、一緒にいる少年に腹が立った。
少年はシホの言葉を思い出していた。彼女は、友達と間違えた、と言っていた。きっと、その『友達』がアイツなんだろう。
あんなに可愛いお姉さんが友達で。
こんなにR1が近くにいて。
ぎりっ、と少年が唇を噛む。
なんで、一緒にいるのが僕じゃないんだ。R1は、僕との『約束』を忘れたのだろうか。
噛み締めた唇からは、血が滲んできていた。
「お前、オレたちがノヴァアカデミー行く前にせめて小学生レベルの漢字は読めるようになれよ!」
『ノヴァアカデミー』。
ちょうどいい、自分と同じ学校に行くんじゃないか。
(……アイツを……。そうしたら、R1は僕の物になるに違いない……)
少年の中で、恐ろしい考えが首をもたげた。
(……僕だけだ、キミを愛しているのは。僕だけなんだよ、R1……!)
少年の名は、鷹崎・クリス・アルフレッド。
アルフレッドは、決意した。自分と似た少年を殺すことを。
そして、アルトがその毒牙にかかる日は、刻一刻と近づいてくるのだった……。


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