【小説】オリジナル/R刻番外編/きっと二人で歩いていける


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一月一日。
サクラの借りているマンションで暮らし始めたアルトたちにも、新年が訪れた。
「はい、これ。アルトとメルちゃんに。お年玉だよ」
あけましておめでとう、の挨拶をした後、アルトとメルには、小さなぽち袋が渡された。
アルトとメル、そしてリノが顔を見合わせる。
「ありがたくもらっちゃうけど……リノにはないの?」
訊いたのはメルだった。
サクラが、あ、それそれ、と指摘する。
「リノはお金の使い方が判らないだろうからね。その代わり、洋服をいっぱいあげるよ。クローゼット覗いてごらん。たくさんあるはずだから」
「えっ?」
サクラの言葉に、リノが嬉しそうな声を上げて、隣の部屋に駆け込み、クローゼットを両手でばっ、と開いた。
そこには、いろんな種類の服、服、服。全部、リノの体格に合うように作られていて、見るからに値段が高そうな洋服ばかりだった。多分、全部セミオーダーだろう。
「これ、全部ボクの?」
彼が大きな声でサクラに訊く。
「そう。全部キミのだよ」
サクラがにこにこしながら答える。その笑顔を見て、思わずアルトとメルが顔を見合わせて笑う。二人が思っていることは、おそらく同じことのはずだ。
なぁんだ、サクラさん、父親としての実感ないって言っても、しっかり父親じゃん。
「うわぁ! 早速着替えてもいい?」
「勿論! アルト、選んであげて」
リノは今まで、決められた服しか着てこなかった。コーディネートが判らない、と思うのが当然だ。それを見越して、美術のセンスがあるアルトに白羽の矢を立てたんだろう。
「よっし、リノ。選んでやるよ」
アルトがそう言いながら隣の部屋に行くと、リノの嬉しそうな歓声が聞こえた。
「そっかぁ。サクラさん、考えたね~」
メルが、前日までに作っておいたおせち料理を冷蔵庫から出しながら感心したように言うと、個別の皿と箸を出しながら、サクラが答える。
「うん。それに、サプライズプレゼント、結構好きなんだ」
「あー! 判る~、それ」
「でしょう?」
2人が笑い合っていると、隣の部屋から着替えたリノとアルトが出てきた。
リノは、襟元が皮ひもで飾られた、特徴的なモノトーンボーダーの長袖Tシャツに黒いハーフパンツといった出立ちだ。背の高さの割に、あどけない顔をしたリノにはハーフパンツがよく似合っている。
「どうかなぁ?」
「うんうん、似合うよ」
「きゃあ、リノ! 可愛い~!」
2人が褒めると、リノがにっこりと笑って、小さくガッツポーズした。
「やっぱり、アルトはセンスいいなぁ。わたしは組み合わせ考えずに買ってきただけだから、正直、あうコーディネートがあるかどうか不安だったんだけど」
サクラがメルを席に着かせて、自分も席に着きながら笑うと、アルトがちょっと照れくさそうに、
「コーディネートなんて大層なものじゃないっすよ。同系色でまとめただけ」
と、言いながらリノを席に着かせ、自分も席に着いた。
「じゃあ、食べようか。いただきまーす!」
サクラの挨拶で食事が始まると、あっという間に騒がしい食事になった。
「メルちゃん、この黒いのなに~?」
リノがアルトに取り分けられた黒豆を見せながら、メルに訊く。
「あ、それ黒豆。甘くておいしーよ」
ふーん、と食べ始める彼を見て、アルトが話し掛ける。
「リノ、酒飲もうぜ、酒! おいしいからさ」
すると、サクラが注意する。
「こらアルト! 飲酒は二十歳になってから」
「ちぇっ」
既に分けられた黒豆を食べ終わったリノが、こっちも、こっちも、と栗きんとんをせがみ、またしても彼女に訊く。
「メルちゃん、こっちの黄色いのは?」
すると、手作りの昆布巻きをサクラに取り分けていたメルから、答えが返ってきた。
「それは栗きんとん。それも甘いよ~」
取り分けられた昆布巻きを食べて、サクラが一言。
「うん、この昆布巻きおいしいねぇ」
「ありがと。サクラさん、大好きっ」
市販品の伊達巻を食べていたアルトが、あることに気づいて、彼女に訊く。
「あれ、そういや、雑煮ねーぞ?」
「我が家ではあれはお昼からなの」
「ふーん、変なの」
途端に、頬を膨らませるメル。そうやっても可愛いんだから、この妹はつくづく完璧だ、と伊達巻を分解しながら思う。
しかし、次の言葉には、彼も慌てざるを得なかった。
「うっさいな、もう。お昼作ってあげないんだから!」
「ちょ、タンマ、待てって! オレが悪かったよっ!」
一人、栗きんとんで口の周りをべたべたにしながら、リノが幸せそうに息を吐く。
「おいし~。幸せ~! メルちゃん、ホント、お料理上手だねっ」
「リノはいい子だね~! それに引き換え、アルトときたら……」
アルトがリノの口の周りを拭きながら、
「なんだよ、文句あるのかよ!」
と、文句を言うと、
「べーだ!」
と、あっかんべーつきで返ってきた。それでも、見た目が可愛いんだから、本当に反則だ。
サクラが笑いながら、一応注意をする。
「こらこらっ、仲良く仲良く!」
だが、二人が本気でないのは判っているので、それ以上言わず、福豆を口に運び出すサクラ。
アルトも黒豆を口に運ぶ。
「まぁ、これウマいよ。マジで。お前って、ホント、料理上手だよな」
すると、メルが頬を真っ赤にして、ありがと、と呟いた。
まるで、研究所での生活が嘘みたいな幸せな時間。
それはなんだかんだで、昼過ぎまで続いた。

********

「アルトー! こっちこっち!」
昼過ぎ。
リノが白い息を弾ませながら、アルトを手招きした。
2人は、初詣ついでに散歩に来ていた。
初詣がなんたるかをリノに説明するのが大変難しくて苦労したのだが、考えた挙句、「神さまにお願いを聞いてもらうんだよ」と言ったら、喜び勇んでついてきた。リノにとって、神さまがどんなものかは知らないが、この調子だと、神聖なものだというのは判っている筈だ。
「あれが食べたいの!」
リノが指差した先には、ワゴン車のクレープ屋さん。ここら辺にいつも販売しに来ているものだ。
「ん? メルはあれ作ってくれないのか?」
「うん。あれはね、作るの苦手なんだって」
あのメルに作るのが苦手な食べ物があったとは。
アルトが内心びっくりしながらも、先ほどもらったぽち袋を取り出した。そう言えば、まだ財布がない。今度、残ったお年玉で財布を買おう。
「で、どの種類が食いたいんだ?」
「えっ、アルト作ってくれるの?」
「馬鹿、オレが作れるわけないだろ。買うんだよ。この先に公園あったろ? そこで食おう」
すると、少しの間があって、リノがこう尋ねた。
「カウってなに?」
純真すぎるその瞳に、アルトはちょっぴり切なくなって、不自然にはならないように目を逸らしながら、うん……、と言葉を濁した。
……そっか、コイツの頭では、買うという行為が理解できないのか。
しかし、アルトは辞書ではない。故に、『買う』を正しく説明できる自信もない。
仕方がないので、あとで辞書を引いて教えてやろう。
「あとで教えてやるよ」
「うん!」
リノは返事をしつつ、メニューを眺める。
アルトがぽち袋の中身を確認すると、中には二万入っていた。
……すっげー奮発してるな! こんな使わねーぞ!
心の中でツッコミを入れながら、リノが選び終わるのを待つ。
メニューなんて、はじめて見るんだろうな、と思う。
その瞳は好奇心からキラキラ輝いていて、ずーっと笑顔のまま、興味深そうにしているリノは、アルトよりも年上なのに、ずっとずっと幼い子供のようだった。
「決ーめたっと! これがいい! アルトは?」
「おっ、気が合うなぁ。同じのにしようと思ってたんだ」
そう言って、ワゴンの窓を覗き込み、中の店員に声をかける。
「おねーさん、イチゴチョコ2つ。あと、コーラと……。リノはオレンジジュースでいいか?」
「うんっ!」
リノの嬉しそうな返事を聞いて、オレンジジュースも、と付け加えるアルト。
「はい、今焼くので少々お待ちくださいね。……って、綺麗な瞳、2人とも! 兄弟?」
店員の女性が、クレープの生地を焼きながら、アルトに訊いた。
「え? あのねー、ボクたちねー……むぐ……」
コイビト、と言いかけたリノの口を、慌てて手で塞ぎ、あはははは、とごまかし笑いを浮かべるアルト。
「従兄弟です」
「ふーん、従兄弟かぁ。……はい、焼けたよ。えっと、イチゴチョコ二つと、コーラとオレンジジュースで、九百エンになります」
「スミマセン、大きいですけど」
アルトが一万を渡すと、店員が、おっ、お年玉、奮発されたね~。と受け取った。
「大きいほうが九千と、細かいのが百エンのお釣りね。はい、これイチゴチョコとジュース。こっちがコーラね」
「ありがとうございます」
笑顔で答えて、リノにクレープとオレンジジュースを渡し、行こう、と促した。
歩き始め、ワゴンから声が聞こえないだろうことを確認したリノが、ねぇ。と声をかける。
「コイビトって言っちゃいけなかった?」
「んー、男同士で恋人になるのは、世間ではタブー視されてるからな」
「タブーシ?」
リノが訊き返すと、アルトがそう、と答えた。
「つまり、あんまりよくないこととされてるんだ」
「よくないことなのに、アルトはどうしてボクのことを好きになったの?」
「ヒトを好きになるのに理由いるか?」
「いらない」
だろ、と答えて、公園へ入るアルト。リノもそれに続く。
郊外にあるサクラのマンションの近くは、今は冬で常緑樹くらいしか茂っていないが、春になれば芽吹くだろう木がたくさんある。この公園も、そんな木々に溢れていた。
アルトが陽だまりのベンチに腰掛け、リノに手招きする。
リノが隣に腰掛ける。
「ここ、あったかーい」
「冷めないうちに食おうぜ。生クリームも溶けちゃうし」
いただきます!と元気よく言って、リノがクレープにかぶりついた。
「おいしーい! うわぁ、おいしーなぁ」
がっついたからだろう。口の周りをチョコクリームと生クリームでべたべたにしたリノが、にっこり笑う。
朝の栗きんとんといい、コイツは綺麗に食えないのか。アルトは思ったが、そんな子供っぽさも可愛かった。
「おいおい。ガキか、お前は。落ち着いて食えよ。誰もとりゃしねーから」
そう言いながら、アルトは彼の口の周りをティッシュで拭いてあげた。まったく、などと言いながらも、彼を見つめるアルトの目は優しい。
リノが、その瞳をじっと見つめ返す。
「な、なんだよ」
恥ずかしそうにするアルトに、リノがううん、とかぶりを振る。
「コーラってなにかなぁ、って思って」
「お前さぁ……。のーみそ、食うことだけで構成されてない?」
「あっ、ヒドいなぁ! ちゃんとアルトのことも考えてるよー」
はいはい、ほれ、飲んでみ。
そう渡されたカップのストローに口をつけると、リノは途端に咳き込み始めた。
「ど、どうした?」
「これ、ちくちくするー! 痛いー!」
どうやら、リノには炭酸がキツ過ぎたようだ。
「あー、炭酸飲んだことなかったか、やっぱ」
「タンサン? これ、栗でしょ? 栗のイガイガ、中に入ってるよね?」
「入ってるわけねーだろ、馬鹿」
笑いながら、リノを小突く。
リノもつられて笑い、またクレープをほおばりだした。
しばらく、無言でもぐもぐする二人。
比較的すぐに、リノのクレープがなくなった。
彼が指を舐めながら、にこにこして宣言する。
「あー、おいしかった! ごちそうさまでしたっ!」
彼はティッシュを渡され、首を傾げた。
だが、そうされるのは当然だろう。顔はやはりべたべたになっている。
「顔拭けよ」
「はぁい」
ティッシュで乱暴にごしごしっと顔を擦り、クレープが包まれていた紙とティッシュとを一緒にした。
「そっちにごみ捨てる場所あるから。判るか?」
「あのかごでしょ? 判るよぉ」
リノがくずかごに近づく。
すると。
「なにこれ、可愛い!」
一匹の猫が、リノに向かって飛び出してきた。
彼のヒトの良さは、動物には心地よいのだろう。猫はリノに擦り寄って、離れない。
「キミ、なんていう名前? ボクねぇ、リノっていうんだ」
猫は一鳴きして答えた。
「にゃーん? 変わった名前だねぇ。……一人なの?」
猫はまたも一鳴きする。
「にゃーん? いや、一人なのって訊いてるの」
「あー、それ、言葉話せねーから」
ようやくクレープを食べ終わったアルトが、くずかごに近づき、リノに説明した。
「なんで?」
「猫だから」
アルトはそう言って、猫を抱っこした。
「ネコ?」
「人間以外は、言葉を話せないんだ」
「ふーん」
リノが猫の頭を撫でながら、ぽつり、と言う。
「ボクが実験中に殺したのも、ニンゲンじゃ、なかったんだ」
リノが続ける。
「あのね、アルト。ボク、いっぱいのものを壊したり、殺したりしたよ。頭のバンドに線をつながれるとね、何も感じなくなるんだ。ボクはそんな自分が怖かった」
リノの瞳は罪悪感から、光をなくしていたが、恐怖心からか、潤んでいた。
アルトが猫を離して、ばいばい、と手を振った。猫は名残惜しそうにしていたが、二人が真剣に話をしていると判ったようで、さっと身を翻し、生垣の向こうに消えていった。
「それでもアルト、キミはボクのことを……」
「好きだって、言える」
彼が全部を聞かないまま、引き継いだ。
そして、リノにも判るように、言葉を選びながら伝える。
「オレは、お前のことが好きだ。お前の全部が好きだ。無邪気なお前も、世間知らずなお前も、殺戮兵器として育てられたと知っていても、それだって全部好きなんだ」
さっき、猫がお前に擦り寄ってきただろ?
「猫は警戒心の強い動物なんだ。普通は、見知らぬ人間になんか近寄ってこない。でも、お前にはすぐ近寄ってきただろ。あれは、お前がいい人間だと、本能的に判ってるからなんだ」
だから。
「……脳波を操作されていたときのことなんて、気にするな。それはお前であって、お前じゃないんだからな」
アルトは、言い終わってすぐにリノを抱き寄せて、ふわふわの髪をくしゃっとした。
「アルト……」
泣き出すリノをベンチに座らせ、そうっと頭を撫で続ける。
そこに通りがかったのは、アルトと数日前に判り合えた幼馴染。
「あ、アルト」
あずさだった。
「なに女の子泣かしてんの? 可哀想じゃない」
あずさには女に見えるのか、コイツ。
思いながら、アルトが言い返す。
「ちげーよ、男だよ」
「……ホント?」
「背の高さ見ろっての!」
「あー、確かにアルトより高い」
「うっせ!」
いつの間にか、リノが泣き止んで、二人を見比べていた。
リノはアルトの記憶を見ている。あずさのことは判っているはずだ。
「この人……」
アルトはその言葉を制し、リノにあずさを、あずさにリノを紹介する。
「リノ。コイツはあずさ。オレの幼馴染」
リノがあずさに挨拶した。
「あずさ、コイツはリノ。オレの……」
「恋人でしょ?」
あずさの言葉に、アルトがうっ、と声を詰まらせた。
「お前……オレがバイなの、知ってたっけ?」
「うすうす判ってたよ。つーか、アルトは男にもモテてたし、わざわざあたしが付き合う必要があるのかも疑問に思ったほどだったし」
へーえ、とあずさがにんまり笑う。
「可愛いなー。リノくんか~。……ん? その目、アルトと同じ……?」
「ああ、血縁上は、オレの従兄」
「え、じゃあ、もう一人の被験体ってこの子……?」
うん、とアルトが言うと、あずさが辛そうな表情をした。
「TVで見たよ、アルトが行った研究所……。脳波がどうだ、って話もやってた。リノくん、もう大丈夫だからね。なにかあったら言ってね」
「うん、ありがとう。あずささん」
と、あずさが公園に設置してある時計をチラッと見た。
「あ、あたし、バイトだった! 坂の上のパン屋、判る? イートインのある……」
「ああ、判る。『バードトリップ』だろ?」
「あそこでバイトしてるの。何かあったら来て。この間の……めるみゅ~でしょ、あの子……も一緒に。はい、割引券」
アルトとリノに割引券を渡すと、あずさは公園を突っ切って丘を上がっていった。
二人は彼女を無言で見送っていたが、やがて、リノが口を開いた。
「アルト。あのヒト、悪いヒトじゃないね。心が柔らかかった。いいヒトだよ」
「ん、そうだな。オレもそう思う」
さて、帰るか。
アルトが立ち上がって、少し歩き、リノを振り返る。
「アルト」
なんだ、と答えるその瞳は優しかった。
リノがにっこり笑って、彼に駆け寄り、手を繋ぐ。
「あずささんのバイトしてるって所、今度行こう」
「お前、バイトってなんだか判るのか?」
「判んない」
「なんだそれ」
笑いながら、二人で歩く道。
きっと、これからも、こうして二人で歩いていける。
アルトはそう信じながら、リノの手をかたく握った。


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