【小説】オリジナル/R刻番外編/ハッピーバースディ


+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+
<<【小説】オリジナル/R刻番外編/決意
>>【小説】オリジナル/R刻番外編/きっと二人で歩いていける
+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+

「んーと、あと、これとこれと~……」
「おい、メル。買い過ぎだっての……」
アルトは、メルと、という珍しいコンビで、サクラの借りているマンションから近いスーパーに買い物に来ている。
リノとアイダが無事に研究所から脱出できたお祝いと、リノの誕生日祝いのパーティの材料を買いに、である。
買い物カゴいっぱいの材料に悲惨な声を上げているのは、実の兄のアルト。
「だぁってぇ。アイダさんが会長に就任した記念もあるし~、アイダさんがどれだけ食べるか判らないし~」
「だからって、これは買い過ぎだろ。お前、何人で食うか判ってんのか?」
そんなの判ってるわよ~。
メルが頬を膨らませて指折り数える。
「アルトでしょ、リノでしょ、サクラさんでしょ、アイダさんでしょ、あと、あたし。5人だよ」
「これ、5人で食い切れると思ってんのか?」
「他のヒト、みんな男のヒトだもん。楽勝でしょ?」
「だいたい、お前、なに作るんだよ?」
えっとね。
メルがずらーっと献立を並べ始める。
「メインはチーズフォンデュにしようと思ってるんだー。だから、バゲットと、にんじんと、ポテトと、ウィンナー。で、鶏肉が安かったから、唐揚げ作って、あっ、サラダはね、2種類なの。緑黄色野菜のサラダと、マカロニサラダ。でね、リノが食べたことないって言ってたから、ういろう作って、クッキー作って、アイス作って、ケーキ作ってあげるの」
「甘いものそんなにいらなくね?」
「アルト、甘いもの嫌いだっけ?」
いや、大好物だけど。
その言葉を聞いて、じゃ、いいじゃん。と返すメル。
しかし、アルトは腕の重さに辟易しながら、こう考えていた。
サクラさんとアイダさんがどう思うかだよな。
アルトは、アイダのことは『さん』付けで呼ぶことにした。リノを救ってくれた恩人だからだ。それに、なんだかんだ言って、リノを大切だと思っていたことは思い知らされた。きっと、今まで影で、元名誉会長から守ってくれていたに違いない。
『さん』付けは、まだ慣れないが、そのうち慣れるだろう。
「あっ、ゆで小豆安いなぁ。ういろう、水無月風にしようかなぁ?」
「まだ増えるのかよー。サクラさんも連れてくりゃよかった!」
アルトの愚痴に、メルがない胸を張って答える。
「サクラさんの細腕じゃ、アルトの半分も持てないよ!」
「サクラさんがパワー使えば、一発だろうがよ! オレはバーストに特化してるだけで、他は一般人の上に、今、怪我人なんだ。大事に扱え!」
そこで初めて、メルがぽん、と手を打った。
「あっ、そうだね。ごっめーん! サクラさんに連絡してくるから、会計済ましてて!」
財布と荷物を預け、テレカを持って、スーパーからそそくさと出て行く妹を見て、ため息一つ、アルトがレジに並んだ。
と、空腹なのもあって、少しふらつく。

ぽす。

誰かに当たって、はっ、とし、慌てて離れるアルト。
「すみません、ボーっとしてて……」
「……!」
どさっ。
相手が荷物を落とした。
「?」
拾ってあげようとして、初めて相手を見て、アルトも驚愕した。
「あずさ……」
「アルト……」
なんでこんな場所で。
なんでこの相手に。
双方の思いは同じだった。
固まったまま、動けない。
「アルトー! サクラさん来てくれるって……。あっ」
メルがやってきて、ただならぬ気配に声を漏らした。
「や、やだ、お邪魔だったかな? あ、アルト。会計、あたしがしとくから、そのヒトと。はい」
メルが、アルトをあずさのほうに押しやって、レジに並び直す。
「……少し、外で話すか」
沈黙を破ったのは、静寂が嫌いなアルトだった。
「……うん」
あずさも頷いて、2人でスーパーの外の駐輪場に出た。

********

「そっか、おじさんの転勤か」
子供は風の子、とはよく言ったものだ。
この寒いのに、走り回って楽しげに遊ぶ子供を見ながら、アルトはホットのカップコーヒーをあずさに渡した。
「アルトはなんで?」
「……今日の記者会見、見たか?」
「……ううん」
そうか。
アルトは言いながら、ホットのカップココアを自販機から取り出した。
「オレの収容された研究所。あそこで人権侵害の研究をやっててさ。逮捕されたんだ、スポンサーが」
一口飲んで、息を継ぐ。
「オレはその2日前に、さっきの娘と、研究員のヒト1人と一緒に研究所を脱出した。そのあと、元々いた実験体ともう1人の研究員が内部告発してさ。で、今、ここにいるわけ」
あずさは、ホットコーヒーをすすりながら、真剣な眼差しで話を聞いていた。
「ゴメンな。『化け物』がまた、この世に出てきちまって」
「……アルト」
「だけど、オレは大切なものを見つけたんだ。一生、そいつらとつるんでいくつもりだよ」
「アルト、あたしは……」
あずさの瞳から、涙か一筋、こぼれた。
「あの事、後悔してる」
それはコーヒーの中に溶けて、消えてなくなった。
「……アルトは、ずっと優しかったよね。最後の日も、結局、あたしのコト、心配しててくれたんだって、ママから聞いた」
だから。
「ごめんね、アルト。あなたのコトを否定して。一度はあなたを受け入れたのに……」
とめどなく溢れる涙。
そのしずくは透明だった。
「許して、とは言わないよ。だけど、だけどね……」
一言、謝れてよかった……。
「あずさ……」
「おーい、アルト~!」
遠くから、リノの声。
声のした方向を見ると、黒い車が止まって、その後部席からリノが顔を覗かせていた。
車の近くには、サクラとメルもいる。
「アルト、話は済んだか? 済んだなら、早く乗れ」
アイダが運転席から顔を出した。
「あずさ」
アルトがふ、と笑う。
「あれが今、オレの大切にしているやつらだ」
あずさが眩しそうに彼らを見つめた。
「アルトは……ずいぶん遠くに行っちゃったのね……」
「そんなことない。むしろ、力を隠して生きてた昔より近くにいるさ」
アルトが、右手を差し出した。
「おじさんとおばさんによろしく。また会おう、イヤじゃなければ」
あずさが涙ぐみながら、アルトの右手を握り返す。
「うん……!」
アルトが空いたカップをくずかごに入れ、車に駆け寄った。
そして、あずさに向かって手を振りながら叫ぶ。
「お前も今日、誕生日だったな! ハッピーバースディ、あずさ!」
あずさが返す。
「ありがとう、アルト!」
そして、車の後部座席に乗り込んだ。
「アルト、なんか心があったかい」
リノがニコニコして、アルトに寄りかかった。
「ん、お前もあったかいよ」
リノのネコ毛を撫でながら、アルトが嬉しそうに言う。
「飛ばすぞ。もう夕方だからな」
アイダが言って、車を急発進させた。

********

「でっきたー! みんな、お待たせー! 夕飯にしよっ!」
メルが溶けたチーズの入った鍋を、テーブルに運んできた。
椅子が5つないので、立食パーティだ。
サクラが全員にウーロン茶を注ぐ。
「じゃ、いただきます。かんぱーい!」
「かんぱーい!」
カラン。
ガラスの交わる音がして、パーティが始まった。
「うおっ、このサラダ、オレの苦手なものも入ってるのに超うめぇ! メル、お前、料理の天才だな!」
アルトが褒め称えると、メルはえへん、とない胸を張った。
「こう見えても、料理の腕には自信あるんです~」
「チーズの溶けたの、おいしー! メルちゃん、もっと食べていい?」
「あ、リノが主役だからね! どんどん食べちゃって!」
メルに言われて、ここぞとばかりにチーズフォンデュをほおばるリノ。
「確かにうまいな。イイダ、お前、いい奥さんをもらえそうじゃないか」
アイダに言われて、サクラは、いやぁ、と嬉しそうにデレた。
「アイダさんのお口にも合ったようで、良かったです」
メルが言うと、アイダがウーロン茶を飲みながら、いやいや、と仕草で返した。
「しかし、アイダ。会長職は大変じゃないのか?」
「まあ、それはそうだろうが……。この子たちの為だ。頑張るさ」
サクラの問いに、アイダが答えると、サクラがそうか、と笑って返す。
「それはそうと、早速、会長として、イイダに命じなければならないことがある。聞いてくれるか?」
「うん? ああ、いいさ。何でも言ってくれ。力になるよ」
それは助かる。
そう言って、アイダは懐から紙を出した。
それには、こう書いてあった。
『委任状 入生田咲良殿 本日付けで、ブランニュー・テクノロジー・ラボラトリの所長に任命する。20××年1月1日  蓬田財閥会長 蓬田留有』
2日後の日付だ。
「ええっ?」
サクラが驚くと、少し意地悪く、アイダが笑う。
「お前が適任だと、会議でも名前が上がってな。わたしもそう思うから、すぐに決まった」
「わたしは若すぎやしないか?」
「子供たちを任せられるのはお前しかいない。力になる、とさっき言ったのは嘘か?」
いや、嘘じゃないが。
動揺するサクラに、子供たちが口々に言う。
「サクラさんだったら務まるよ~! 大丈夫!」
「おい、メル。お前、将来、所長の嫁さんだぜ。すげーな」
「あはははは、アルトってば。まだ気が早いよー」
その言葉たちを背に、困った笑顔をしながら、サクラが委任状を受け取った。
それでいい。
アイダがニヤリと笑う。
「これで、子供たちの安全は守られた。さて、パーティの続きをしようじゃないか」
「おめでたいコトいっぱいだね!」
リノが無邪気に言う。
「来年はいい年になりそうだなぁ。ね、アルト」
「そうだな」
アルトはその笑顔を見ながら、改めて、この幸せを守りたい、と思った。

END.


+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+
<<【小説】オリジナル/R刻番外編/決意
>>【小説】オリジナル/R刻番外編/きっと二人で歩いていける