【小説】オリジナル/ブルプリ/STAGE03『見える輝き』(Alto)

「今日はいろいろ仕入れに、街に行こうか」
 朝飯を食いながら、アルフレッドが俺たちに言った。
 相変わらず、アルフレッドの作る飯はまずい。でもどこか懐かしい、嫌いになれない味だった。
「仕入れに……ですか?」
 リノがきょとんとして、アルフレッドに問う。
「そ。姫の使う食器とか、服とかだね。いつまでも、僕たちのお下がり使いたくないでしょ?」
 アルフレッドの、もっともなその意見に、俺も賛成する。
「そうだぞリノ。お前、こんな欠けた皿と、よれよれの服でいいわけないだろ」
 リノは一瞬、分からなかったようで、顔を崩さなかった。
 が、すぐに頬を紅潮させて、喜びの表情を浮かべる。
 髪の毛もぴょんぴょんはねていて、ホントこいつ、わかりやすい。
「い、いいんですかっ!」
「悪い理由もないだろ?」
「ねー。姫のおねだりだったら、ちょっとくらい高いものでも買っちゃうなー」
 アルフレッドが彼の頭を撫でる。
「だって、可愛いんだもん。一目惚れってヤツ?」
 にこ、と笑う弟は、とても穏やかだった。
「ご飯食べたら準備してね。エジャールの、北のほうに行くよ」

 *********

 エジャール南部。交易都市デルタ。
 ビオトープから出た俺たちは、エジャールの中で一~二を争う大きさの、交易都市に来ていた。
 『契約の副作用』の関係で、アルフレッドは変身しており、一見物々しいが、まあ、しょうがない。
 ここの通りは円形になっており、聖堂を中心にして形成されている。
 俺たちは、まずは一番小さな通りから攻めることにした。
「あ、食器」
 アルフレッドが指差す先には、ワゴン。
 が、おしゃれ好きの彼が指差したにしては、とんでもなくダサいもので、値段も超特価1Sp。1Spとか、普通のハンバーガーも買えない値段だぞおい。
「や、アレはないだろ」
「……だ、よねぇ……」
 行くぞと、声をかけようと、隣にいるリノを見たが、既にそこには姿がなく。
「リノっ?」
 彼は、その食器のワゴンの傍で、キラキラとした目で食器を見つめていた。
 店員は店舗の奥に引っ込んでいて、出てくる気配を見せないが、声が聞こえたら気まずい。
 俺は小さい声で、
「……それはダサいだろ……」
 と彼を止めた。
「でもっ、絵がついてる!」
「……この不細工な犬……みたいなののこと?」
 アルフレッドが眉をひそめた。
「かわいいっ! キラキラしてるし、これがいいです!」
「えっ……。姫、それはいくらなんでも」
 止めるアルフレッドを援護する。
「あのさ、もーちっといいの買ってやるから、それだけはやめておけ。な?」
「う……わかりました……」
 あああ、そんな残念そうな顔をするな! 髪もそんなにしなびて……。なんか、俺たちが悪いことしてる気分になるだろ。
 俺はそっとアルフレッドに耳打ちする。
「やたらなもん見せない方がいい。コイツ、本当にまともに育てられてねぇぞ」
 アルフレッドもこそっと返す。
「うん、悪い。うかつだったよ……」
 しばらく通りを歩くと、今度はまともそうな食器を扱っているお店を見かけた。
「ここのならいいかもしれないな」
「綺麗なお皿ですね! やっぱり、絵がついてるのはいいなー」
 俺が言うと、奥から店員が出てくる。
 店員は、リノを一瞥して一言。
「あーあー、獣くせえと思ったら、アゼルじゃねぇか!」
「なんだと?」
 俺が聞き返す。
 確かに、俺たちが生まれるちょっと前までは、アゼルマインとエジャールは長い戦争をしていた。両国の仲は未だ険悪だ。
 だが、言っていいことと悪いことがある。
「アゼルに売るものはねえってんだよ! そっちの兄さん方はエジャンかもしれんが、アゼルに肩入れするなら話は別だ。俺んちの物は一切買わないで貰おうか!」
 リノはぼうっと店員を見つめていたが、そこまで聞き終わると、うつむき、小さく「すみません」と言って下がった。それを庇うように、弟が店員との間に入る。
 アルフレッドは、さっき店員がしたように、その男を一瞥して、はっ、と短く息を吐いた。
「行こ。ここの品物は、姫にふさわしくないよ」
 リノの腰に腕を回して、弟がエスコートを始める。
 俺は無事に離れていく二人を見て、
「今時、人種差別なんて流行んねぇぞ。悪いこと言わねぇから、やめとけよ?」
 と、忠告し、彼らを追いかけた。
「ごめんね姫。なんか、悪いのに当たっちゃったね」
「いいんです。慣れてます。それよりも、お皿……」
 んー、どうしようかね。
 俺たちが悩んでいる間に、小さな通りは一周してしまったらしい。また、あのワゴンに到着してしまった。
 リノはワゴンに近寄って、犬だかなんだか分からない、ひどい出来の絵皿を手に取った。
「ボク、やっぱり、このお皿がいいです。売ってもらえるかどうか、分かりませんけど」
「そ、そんなにほしいの? 違う通り行けば、もっといいのが……」
「ボクはこれがいいと思ったんです」
 こ、コイツ結構頑固だ……。
 すると。
「あらあら。この子、アゼル? 珍しいわー」
 気のよさそうな老女が、奥から出てきて微笑んだ。
「それ、お気に召したのかしら? 私が趣味で作ったものなの。売れ残っちゃってね……」
 老女ははぁ、とため息をつく。
 作ったものが売れない悲しさはなんとなく分かるが、売れないのもなんとなく分かる。
 おばあさんには申し訳ないけど。ごめん、俺だったらこのブサ犬皿は欲しくない。
「あの……。ボクに売って頂けませんか? 可愛いお皿だと思ったんです。きっと大切にしますから」
 リノがおばあさんに必死に訴えた。
「ええ、ええ。そこまで言ってくれる人は初めてよ。商売だから、お金は頂くけれど、どれでも好きなものを選んでちょうだい。一つ一つ、顔が違うのよ」
 俺には全部同じにしか見えない。
 が、リノは楽しそうに選び始めた。
「ちょ、いいのアルトくん?」
 アルフレッドが耳打ちするが、
「しょうがないだろ……。あんなこともあったし、コイツ頑固すぎて話になんねー」
 俺も返して、リノを見守る。
 やがて二枚に絞った彼は、それらをよく見比べると、片方を置いてもう片方を大切に持ち、頷いた。
「これをください」
 おばあさんとアルフレッドが会計をしている間、俺はリノに聞いた。
「なんで、アレを選んだんだ? 正直、俺には全部同じに見えるんだけど」
 するとリノは、少し照れたように笑う。
「ボクの目からは、大切にされたモノだと、キラキラ輝いて見えるんです。そのキラキラが一番綺麗なものを選びました」
「ふーん……」

 **********

「……って言っててさ」
 家に帰って、二人きりになったとき、俺は弟にリノが言っていたことを話した。
「へぇ。姫の視界ってちょっと体験したいかも。綺麗な世界なんだろうなー」
 アルフレッドはそう言って笑ったが、
「リノ曰く、そうでもねぇみたいだぞ」
 俺はリノが言ったことを思い出す。

「でも、このキラキラ、ヒトや動物にも見えちゃうから……。仲よさそうな家族なのに全然キラキラしてないどころか深淵の闇みたいなモノが見えたりとか、嫌なこともたくさんあって」
「それは大変だな……」
 俺が苦い顔をすると、リノは俺の顔を覗く。
「そう言えば、アルトさんもキラキラしてるけれど……不思議なキラキラですね。ぼやけて、幾重にも重なって見える」
 彼はなんでだろう、としばらく考えていたが、
「たくさんの人に大切にされてたのかな!」
 と、笑った。

「……なあ、俺って愛されてた?」
 アルフレッドに話を振ると、は?と結構冷たいトーンで返ってきた。
「進行形で僕に愛されてるけど」
「いや……。そうじゃなくて、他の人に」
「僕、キミ以外に興味ないから覚えてないし知らない」
 あ……。これ、怒らせたかな。
 そう思っていると、低いトーンで弟はいう。
「なんでそんなこと訊いたのか、聞いていいかな」
 隠していてもしょうがないだろう。
 俺は素直に、リノから見える、俺の輝きを話した。
「……ふーん」
 アルフレッドは目を細め、息だけ漏らすと、後ろを向いた。
 しかしその際。確かに聞こえた。
 小さな、舌打ちだった。