【小説】オリジナル/こみらび/キミはたけし屋を見たか


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「ねーねーますたー!」
 ドラッグストアの店先で、ありゅとがぴぃぴぃわめきます。
 ありゅとの指さす方には、大安売りしている『あがりこ』。ありゅとの大好物です。
「あがりこー! かってくりぇー!」
 う、うーん……。
 キノモリさんは、ありゅとを抱き上げました。
 重いな……。キノモリさんは思います。こみろんらびっとは太っているほうが可愛いとされているし、ちょっと太っているほうが健康らしいよ、と獣医さんにも言われたのですが、さすがに重くなり過ぎです。ぽよんとしたお腹も、ちょっと出過ぎてきました。
「ありゅと……。最近太ったよね……?」
「じぇ! かわいいじぇ?」
「……と、言う訳で、ダメです。行くよー」
 ありゅとを地面に降ろし、ドラッグストアでの買い物を済ませて、キノモリさんは帰ろうとします。
「じぇー! なんでなんだじぇー!」
 ありゅとがテッテッテッテッ、と走り、ジャンプして、キノモリさんの服に飛びつきました。
「かってくりぇー! おりぇの あがりこー! あれ、しんしょうひん なんだじぇー!」
 ダメですー。
 言いながら、キノモリさんは商店街を歩きます。
「なんでじぇー!」
「おまえが ふとったから でしゅよ……」
 キノモリさんのフードの中から、ぴのがひょっこり顔を出します。
「ふとったら いけないなんて きいてないじぇー!」
「ふとりすぎは からだにどく なんでしゅよ」
「そうそう。ありゅとはちょっと太りすぎ。ダイエットに成功したら、あがりこ買ってあげるよ」
「だいえっと!」
 ガガン!とありゅとがショックを受けたように固まりました。
「な、なにしたら だいえっとに なるんじぇ?」
「そうだなー……。お手伝いとか、よく遊ぶとか、かな」
 おてつだい。おてつだいじぇ……。
 ありゅとは必死にキノモリさんの服にしがみついて、考え事をしていました。
 そこに、何やらいい匂い。
 キノモリさんがちらと横を見ますと、新しくできたらしい、から揚げ屋さんが目につきました。
 店先に大きな看板があります。『たけし屋』。
 ああ、美味しそうだな。
 キノモリさんがふらふらと店の前に立ちます。
「じぇ? からーげじぇ!」
 から揚げと言えば、この前ありゅとは、から揚げ作りのスキルを取得したばかりでした。
 あのあと、一ヶ月以上、から揚げを作っては食べ続けたのも、太った一因に違いありません。
 ですが、気持ちも分かります。
 ありゅとのから揚げスキルは、いつの間にかすごくなっていて、もしかしたら教えたキノモリさんより美味しく作れているかもしれないからです。
「じぇ!」
 ありゅとが店先の張り紙に目をやります。
「ますたー。なんて かいてあるんじぇ?」
 その張り紙には、アルバイト急募、と書いてありました。
 それをありゅとに伝えますと、
「おてつだいじぇ?」
 と、訊いてきます。
「そうだね、お手伝いだね」
「じぇ! おりぇ、りっこうほ すりゅ!」
「む、無理だってば!」
 そんなことを言っていると、奥から『店長』という名札をつけた人が出てきました。
 その人は、キノモリさんたちを見ますと、
「ふむ、どうしました?」
 と、優しいトーンで訊いてきました。
「あ、えーっと……」
 キノモリさんが言いあぐねていますと、ありゅとが身を乗り出して店長さんに訴えました。
「おりぇ、ここで おてつだい したいじぇ! てんちょうさん、おりぇを やとってくりぇ!」
「ふむ?」
 店長さんは奥のイートインスペースにキノモリさんたちを案内し、話を根気強く聞いてくれました。
「じゃあ、ありゅとくんは、ここで働きたい。そういうことなんだね?」
「ええ。なんか、本人はそういうつもりみたいなんですよ……」
 ふむ。
 腕を組んで、店長さんが頷きます。
「では、ありゅとくん。テストをしよう」
「じぇ」
 店長さんは奥から、使い古された卓上コンロと油が入った鍋、から揚げの材料を持ってきました。
「から揚げ屋さんになるんだったら、から揚げを揚げられないとね。やってみてくれ」
 彼はありゅとに、清潔なふきんをスタイのように掛け、手足を石けんで洗わせてアルコール消毒させ、さあ、と言いました。
「じぇ!」
 ありゅとは迷うことなく、から揚げ作りを始めます。
「からーげ おいしく つくるんだじぇ! もみだじぇー! もみだじぇー!」
 揚げ終わりまで一人でやって、ありゅとはどや顔で、から揚げを店長さんに差し出しました。
「じしんさく だじぇ! たべてみて くりぇ!」
 店長さんが、揚げたてのから揚げを一つ、口に運びました。
 サクッ、という歯ごたえのあとに、ジュワーッと広がる肉汁。味もほどよくついており、お肉もプリプリです。
「こ、これは……!」
「確かに、この子の作るから揚げは美味しいんですが、でも、この子に働かせるとかは……ない、です、よね?」
 キノモリさんがへらっ、と笑いながら訊くと、店長さんはバンッ、と箸を机に置きました。
 真剣です。目が少し怖いです。
 その迫力に、キノモリさんは少し尻込みして、
「ほ、本当にスミマセンでしたッ!」
 ありゅととぴのを連れて立ち去ろうとしました。
 ところが。
「ふむっ、この才能を埋もれさせるなんてもったいないっ! 採用ッ!!」
「へ?」
 キノモリさんは思わず、その場でふにゃあ、と座り込みました。

 

 **********

 

 一ヶ月後。
 たけし屋のバイトはほどよい運動になったらしく、可愛らしいフォルムに戻ったありゅとは、初給料であがりこを買うために、キノモリさん、ぴのと一緒に、ドラッグストアに向かいました。
「おりぇの あがりこー! あいたかったじぇー!」
「ありゅと、よかったでしゅねー」
 キノモリさんのフードの中で、あがりこをポリポリ食べているありゅととぴの。
 肩が凝らない程度の重さになってくれてよかった。
 キノモリさんがそう思いながら、たけし屋さんの前を通りかかります。
 すると、店長さんが奥から出てきて、キノモリさんを呼び止めました。
「あ、キノモリくん! ありゅとくんはいるかい?」
「いるじぇー」
「すまないが、今日は大量注文が入ってしまってね! お客さんも、ありゅとくんのから揚げが食べたいんだそうだ! ボーナスをはずむから、これからシフトに入ってくれないかい?」
 その言葉を聞いて、あがりこを食べ終わったありゅとは、フードから出て、どや顔をしながらポーズを取りました。
「いいじぇー! まかせてくりぇ!」

 みなさんも、商店街でから揚げ屋さんを見つけたら、厨房をそっと覗いてみてください。
 もしかしたら、紫色のうさぎが、から揚げの歌を歌いながら調理しているかもしれませんよ。

 

 

おしまい。


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