【小説】オリジナル/SS/紅蓮の主従関係

一年前。
「汝、誓うか?」
少年の言葉に、青年が頷き、持っていたナイフで親指をすっ、と切った。
「あなたさまの……下僕になることを」
少年が流れる液体に口づけた。
ここに、少年と青年の、主従関係が誕生した。

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「メイベルさま……あのですね、そういうことをなさってはいけません」
少年、メイベルに青年、セレヴンがはぁぁ、とため息をつく。
「いいではないか。セレヴンは私のものなのだよ?」
メイベルが青年の頬に口づける。
「あの日、誓っただろ? 私のものだ、セレヴン。足の先から、髪の毛の一筋まで、逃しはしないよ?」
「……僕はそういう意味で誓ったんじゃないんですがね」
セレヴンのため息はより深いものになった。
「ところで、メイベルさま。執務のお時間です」
「セレヴン勝手にやっておいてよ。私は忙しい」
メイベルがそう言って、屋敷の奥へと走って消えた。
少年、メイベルは闇の眷属だった。
だが、その力を、人間のために使っている。
セレヴンも一年前、姉の病のために契約したが、メイベルはセレヴンに、自身の世話をするだけでいいと言い、魂を売るなどという野蛮なことは要求してこなかった。
「……失礼。メイベル卿の屋敷はここかね」
黒い服に全身を包んだ男が、セレヴンに尋ねた。
不審に思った彼は、男を一瞥して言った。
「主は多忙です。日を改めてお越しください」
しかし、男はにやりと笑い、セレヴンを舐めるように見て言った。
「お前、メイベル卿が今日、魔女裁判にかけられることを知らないな?」
かたん。
セレヴンは音をさせて崩れ落ちた。
「見たところ、もうメイベル卿はいないようだな。お前もじきに裁判にかけられるが、まぁ、今は見逃してやろう」
セレヴンはいてもたってもいられず、屋敷の、メイベルの部屋へ駆け出した。
少年が走って屋敷の奥に消えたのは、セレヴンの小言に辟易したわけではないことは、すぐに判った。部屋は荒らされ、机の上にメイベルの字で、「さよなら、セレヴン。愛しているよ」と書かれた手紙が残されていたからだ。
セレヴンは教会へと走った。
あの方は、人間からはなにも取らなかった。
どうか、どうかお願いです。
僕からあの方を奪わないでください。
教会の前についた青年が見たのは、すでに骸になったメイベルだった。
「死体も残さず燃やすんだ! 蘇るかもしれん!」
薪がくべられ、少年の骸は火にかけられた。
「……メイベル、さま」
確かに、自分は契約した。そして、叶えてもらった。望みを。
しかし、彼はなにも取らなかったのだ。
「……いずれ、僕も罰せられると言うなら」
セレヴンは、燃え盛る紅蓮の炎に身を投げた。
……メイベルさま、あなたは寂しがりやだったから。
地獄まで、お付き合い致しますよ。
最後に、僕の命だけ奪ってしまったって、きっとあなたは嘆くでしょうが。僕の、最後のわがままです。お許し、くださいね。

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セレヴンとメイベルの骸は、焼かれていてもなお残り、二人は寄り添うようにしていた、ということだった。
彼らは今、悪魔の使いとして葬られているが、二人の主従関係を裂く者は、もう現れないに違いない……。

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