【小説】岩男X/My fair_Angel!LV.06『オマエなんかに、わたさない!』


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 エックスと過ごし始めて、また何週間か経った。
 何週間か、というのは、ゼロが――寿命のないレプリロイドが――時間の概念を考えることが苦手なせいだ。きっと、エックスもそうだろう。
 しかし、この関係は1年のリミットがある。その間に、エックスには人間社会のことを覚えてもらわなくては困る。
 ゼロは、いろいろなデータベースを漁って、人間を知るにはどうしたらいいのか考えてみた。
 結論としてはこうだ。エックスは、紛れもなく『レプリロイド(ヒューマン型レプリカアンドロイド)』である(彼はロボットであるという主張をするが、この際その主張はおいておく)。人間そっくりの耳すらついていて、見た目はまがい物になど見えない。
 ならば、『人間にしてしまえば』いい。人間としても生活できるようにしてしまえば。
 幸いにも、彼は喉が渇く。そして、最近分かったことだが、腹も減るらしい。水をあおったり、食事をがっつく(お腹が空いているとき、彼はものすごくがっつく。行儀が悪いので、いずれ矯正しようとゼロは考えている)姿を見て、彼をレプリカだと思うものはいまい。
 つまりは、
「街に溶け込ませる」
 そういうことだ。
「おい、エックス」
 ゼロはCPUナシのメットールで遊んでいるエックスに声をかける。
「街に行こう」
「まち!」
 エックスはぴょいっと立ち上がって嬉しそうに笑った。

 ********

「まち、ひさしぶりだね」
 ゼロの隣に並んで、エックスはキョロキョロしながら歩く。
「なんか、いいにおいする」
「匂い? 感じるのか?」
「うん。キミは?」
 ゼロにも確かに感じる。ゼロの製作者は不明だが、金と手間はたっぷりかけたようだ。
 しかし、調香用のレプリロイドや、災害派遣チームのレプリロイドなどでない限り、そんな個体は稀である。元メイドレプリロイドのシータは、レシピをメモリに組み込まれているため、匂いを感じる機能は必要なかったようでつけられていないらしい。ゼロにその機能があると知ったときに「いいなあ」とボヤいていたものだ。
 話を戻そう。
「これ、なんのにおい? あまそう」
 エックスが辺りを見回す。匂いの元を辿れないのは、経験不足からだろう。
「こっちからするぞ。行ってみるか」
 ゼロはそう言って、エックスと共に匂いを追ってみることにした。
 二人が辿り着いたのは、洋菓子店だった。ノボリには『バレンタインチョコ揃ってます』と書かれている。
「バレンタイン?」
「あー。オレそれ知ってるぞ……」
 女性レプリロイドが、こぞってチョコレートをプレゼントしてくれる日だ。ゼロがげんなりする。1つ2つならいい。甘いものはそう嫌いでもないし、それくらいなら美味しくいただける。
 だが、量が半端ではないのだ。食べ物を粗末にするのは気が引けるので(ここらへん人間みたいだとゼロ本人も思っている)、内部発電の為に消費するが、それが一ヶ月ほど続くのだ。
 その日が間近だったのか。ゼロが苦虫を噛み潰したような顔になった。今年も来たか。いや、でも、今年はエックスが一緒だ。そうだ、コイツにも消費を手伝ってもらおう。
「バレンタインって?」
「なんでも、大切な人に贈り物するんだと。この地方だとチョコレートが定番だな」
「ふうん」
 エックスが、はためくノボリをじっと見た。
「ね、ボクさ……」
 彼が言いかけたその時。
 爆発音とともに、悲鳴が上がる。
「イレギュラーだ! 早くハンターを!」
 その声は、二人の後ろから聞こえた。
 ゼロが振り返ろうとするが、一足遅く、イレギュラーらしきレプリロイドに羽交い締めにされて巧く身動きが取れなくなっていた。エックスを力いっぱい突き飛ばすのが、彼が最後にできたことだった。
 突き飛ばされたエックスは、派手に地面を転がる。
「逃げろエックス!」
 もがきながらゼロが言う。パワーセーブがかかったボディでは、イレギュラーには抵抗できそうにない。
 イレギュラーは銃が獲物のようだ。そんな攻撃では、自分のボディは壊れない自信があるが、しかし、エックスのボディは明らかに戦闘向けではなく、耐久性も期待できない。彼は逃がすのが得策だ。
「ゼロ!」
 ハンターたちがゼロとエックスを分断し、イレギュラーを取り囲む。
「……!」
 エックスが起き上がり、走り出す。
「なにしてる! 逃げろって言ってるんだ!」
 そう。それは逃げる方向ではなかった。ゼロたちの方向に向けて、エックスはひた走る。
「かります!」
「あっ、こらキミ!」
 ハンターの腰から銃を奪い、エックスは最前列へと走る。そして、イレギュラーの真ん前へと位置取ると、銃を構えた。
「その人をはなして!」
 銃を向けられたにもかかわらず、イレギュラーは動じていない。もっとも、こんなことで動じるようであれば、イレギュラーではないのだろう。
「人にモノを頼むときにゃあ、下手に出ろって教わらなかったか?」
 イレギュラーの問いに、エックスが答える。
「ボクには、まだあまりメモリがないから、よく分かんない!」
 銃がカタカタ鳴っている。照準はイレギュラーに向いているが、打つ気力もなければ思い切りも足りない。しかし、まるでプログラミングされているかのような綺麗な構え方ではある。
「でも、ゼロは、ボクと一年いてくれるって、約束してくれたんだ! オマエなんかに、わたさない!」
「ハッハー! じゃあ、ガキ! お前が代わりに死ね!」
 イレギュラーの銃がエックスに向けられた瞬間、エックスの側を誰かがすり抜けていった。すり抜けざま、エックスに「よくやった」と声を掛けて。
 声の主は、銃とイレギュラーを一撃で仕留め、ゼロを解放した。シグマだった。
「大丈夫か、ゼロ」
 なんとか。そう言って、ゼロが胸を撫で下ろした。
「さすが、シグマ隊長だ」
「一撃だもんな」
 口々に言いつつ事後処理に向かうハンターたちに指示を出し、シグマはエックスの元に向かう。
「偉いぞ。と言いたいところだが。部下の銃を返してもらおう」
 エックスは大人しく銃を返した。そうして、シグマの顔色を伺う。その様子はさながら子猫のようだった。
「あの、ボク……」
 シグマが首を振る。
「先日、私の頭痛を飛ばしてくれようとしただろう。それに免じて不問とする」
 では、私は残る任務があるのでな。
 シグマはそう言って、駆け寄ってきたゼロの肩を叩くと、その場から去って行く。ゼロはそれを一瞥してから、エックスの頬に平手打ちを食らわせた。
「逃げろと言ったはずだ! なのに、どうして!」
 叱られたエックスは、毅然として言い返す。
「ボクが、そうしたかったから」
「お前は戦闘用じゃないだろう! お前がどうにかなったらオレは……」
 そこまで言って、ゼロは、はたと気づく。続けようと思った言葉が『ハンターになれない』ではなかったことに。
「『オレは』……?」
 エックスが訊くと、ゼロはふいっとそっぽを向いた。
「あー。知るか知るか! 帰ったらお説教だお説教!」
 ほら、帰るぞ!
 ゼロが言うと、エックスはちょっと待って、とせがむ。
「チョコレート、ほしいな」
 ここは罰として、買い与えない選択肢もあるだろう。本来の自分なら、多分そうするであろうこともゼロは分かっている。
 しかし、しかしだ。無事だったことを褒めてやってもいいのではないだろうか。しかも、あの銃の構え方。なかなか様になってたどころか、恐ろしく綺麗だった。結局打てはしなかったが、イレギュラーだけを狙いに入れているところも見事だった。あの筋の良さだけでも、褒めてやるべきだ。
「……分かった。お前のすわった根性に敬意を表して、買ってやるよ」
 そう言うと、ゼロはエックスを連れて、店に入った。
 色とりどりのチョコレートが二人を迎える中、メットールの形をしたものに目をつけたエックスは、それを持ってゼロのところに行く。
「それが欲しいのか?」
「うん」
 分かった、ちょっと待ってろ。
 ゼロはそう言うと、それを持ってレジに行き、電子マネーで会計を済ませた。
 それから、少し考えて、ラッピングを頼む。
「……お前がいなくなったら、オレは嫌だと思う」
 ゼロは渡すときに、精一杯の言葉を言ったが、包みはエックスに突き返された。
「は?」
「たいせつなひとに、わたすんでしょ。これはボクから」
 ボクが守るって意味をこめて。
 そう言ってエックスは、チョコレートをゼロに握らせた。
 あのこれオレの金ですし、あとオレ何日かしたらまたチョコまみれなんですけどね?
 色々言いたいことはあったが、こそばゆい気持ちも確かにあり、ゼロは黙っていることに決めた。
 受難の日々は、まだ続きそうだ……。


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