【小説】岩男X/My fair_Angel!LV.05『思い出に残るかなと思って』


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 その日、ゼロはなんだか落ち着きがなかった。
 なにかを待っているかのようにソワソワし、食堂の中を行ったり来たりする。
「ゼロ。なんか、きょうのキミ、へん」
「そっ、そうか?」
 上ずった声。
 さすがのエックスも、ああ、このお兄サンはウソが下手だなあ、と思う。
「なにか、まってるの?」
 その言葉に、嘘が下手な青年レプリロイドは少し飛び上がった。図星だ。
「い、いや、大したことは……」
 その時、シグマがなにか大きいものを抱えてやってきた。
「ゼロ、あまりユーリィを困らせるな。骨董品の好きなケイン博士が持っていたから良かったようなものの……」
 小言とともにドン、と置かれたのは、木でできた大きな器とトンカチのようなものだった。
「オレにエックスの教育係を命じたのはあっちです。これくらいは許容範囲にしてもらわなければ困る」
 ゼロが腕を組んでシグマを見上げると、シグマが額に手を当てて呆れた顔を見せた。
「だいたい、これはなんなのだね」
「キネとウス、て言うらしいです。なんでも昔、とある食べ物を作るのに使ったとか」
 お前はエックスになに時代の習慣を植え付けるつもりなんだ。シグマの口から思わずこぼれそうになったが、すんでのところで口をつむぐ。これでゼロのやる気を削いでは元も子もない。
 シグマは予感していた。ゼロはいずれ、イレギュラーハンターを背負うハンターとして活躍するだろうことを。その為の投資としては、このくらいは惜しくはない。
「あ、隊長。せっかくなら、やっていきません? オレの今のボディだと、これキツそうなんで……」
 ゼロの提案に、シグマはまた呆れた。
「私を顎で使えるのはお前くらいのものだよ……」
 しかし。
 シグマは首を振る。
「最近、少し頭痛がしてな。任務以外の活動は控えているのだよ」
「ずつう……」
 エックスが心配そうにシグマを見つめる。ゼロはその顔を観察した。
 エックスは必要以上に他人の痛みを怖がる。人間ならば「優しい」の一言で済むかもしれないが、彼はレプリロイドだ。他人(と言えばいいのか、他レプリロイドと言うべきなのか)の痛みを慮る意味はあまりない。
 などと考えている隙に、エックスは背伸びして、シグマの頭を撫でた。
 あまりの衝撃に、ゼロのCPUが、いろいろなことをフル稼働で考える。
 このバカ、天下のシグマ隊長になんてことしやがる! クラス的に、オレが配属予定なのは第17部隊なんだぞ! あとでなんか言われても困るけど、今クラス替えされるのも嫌だし! あーあー、オレ知らない! 知らないふりしてもいいよな許されるよな?!
 しかし、その天下のシグマ隊長は拍子抜けした顔で
「ふむ……」
 と言うだけにとどめた。
「あたまいたいの、飛んでくといいですね……」
「ああ、ありがとうエックス。そうだな、頭痛が収まったら、ご一緒させてくれたまえ」
 ゼロは内心ヒヤヒヤしながらも、コクリと頷いた。
「キチンとメンテナンスして、ゆっくり休んでください。地球の平和はシグマ隊長にかかってるんですから」
「ははは、大きく出たな。まあ、そうさせてもらおう。では、一旦失礼するよ。それは使い終わったら呼んでくれれば回収に来るので、そのままにはしないように」
 シグマは二人に背を向け、片手を上げて去っていった。
「で、ゼロ。これでなにするの?」
 毎度のことだが、好奇心溢れるこの眼差しは結構キツいものがあるな。思いながらも、ゼロは説明する。
「餅つき。古いデータを漁ったら出てきた。お前知ってる?」
「んー。メモリの中に、すこしだけデータがあるよ。まるくて、すべすべのたべもの。お父サンはおイシャさんからたべるのをとめられてた。のどにつまりやすい?」
 メモリの中にあると、この少年は言うが、食べたことはもちろん、見たこともないのだろう……とゼロは思った。多分、彼はデータの文字をそのまま読んでいる。
「1月は正月があるから、餅を食うんだと。どうせなら、作ったほうが思い出に残るかなと思ってな」
 口走った。ゼロが内心苦い顔をする。思い出に残る? 何言ってるんだオレは。一年経ったら、この関係はおしまいだ。きっとこの研究用の少年レプリロイドとは道を分かつことになる。お互いにとって、思い出作りなど、なんの意味のないことなのに。
「おもいでかぁ。そうだね、寂しくなくなるからね」
 エックスがそう言って屈託なく笑う。一瞬、ゼロの視界にノイズが走り、それはあの夢の欠片を見せて消えた。
 意味、なくはない。か。
 そんな感傷に浸っていると、後ろから話しかけられる。
「もち米、蒸してもらったよー」
 ノーテンキな調子といい、間合いの悪さといい、シータだ。間違いない。
「お前さ、間合い悪くないか?」
 向き直ったゼロの側を素通りして、シータはエックスのところでなにかをしている。どうやら、もち米を試食させているらしい。
「おもしろいね、このおこめ!」
「でしょでしょ! よし、じゃあ餅つき始めようか! ゼロ、あんた餅つく係ね。エックスとあたし、合いの手やるから!」
 ハイハイ、疲れる役はオレですね。諦めて、ゼロは杵を持って餅をつき始めた。
「はーい。ペッタンペッタン!」
「おおー! シータじょうず!」
 ついてるのはオレなんですけどね?
 おくびにも出さないつもりだったが、
「あんこと大根おろしの差し入れよ。この風習が昔のことすぎて、どんなもので食べるのか分から……ゼロ、あなたなんて顔」
 差し入れをしに来たユーリィに指摘されて、自分にも人間みたいな心があるのかもしれないと、ゼロは考えざるを得なかった。

 ちなみに、餅はとても美味しかったので、ゼロはなんだか報われたような気がした。

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To be continued…


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