【小説】岩男X/My fair_Angel!LV.04『ごうかくです!』


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「ゼロ。朝だよ」
 レプリロイドは眠りをとる。
 理由は人間とほぼ同じ。睡眠時に、メモリのデフラグや、ボディバランスの細かな修正を行うのだ。
「ゼロ」
「う、」
 目の前の金髪のレプリロイドが起きないのを不満に思った命知らずの少年は、眠っている彼から枕をぶん取り、それでぱすんぱすんと殴り始めた。
「おーきーてー」
 ぱすんぱすん。
「ねー、ゼロー」
 ぱすんぱすん。
「……起きた。起きたから、やめてくれ頼む」
 この茶髪の少年は、こく、と頷くと、可哀想な青年レプリロイドに枕を返した。
 ゼロは比較的旧式なのだろう。睡眠時の処理があまり上手ではなく、レプリロイドだというのに寝起きが悪い。
「なんだって、お前、こんな朝早くから……」
 少しCPUが活発になり、小言を言おうとした青年に、少年型レプリロイドは目を輝かせて言う。
「きょうは、街に連れていってくれるんでしょ?」
 そのキラキラ目線に耐えきれなかったのか、ゼロは微妙な表情で、エックスの視線からわずかに顔を逸らした。
「おなかもすいた! あったかいものが食べたいです!」
「こんな朝早くじゃ、店どこもやってねーよ」
「う~……」
 この、ハンターベースには食堂は完備されている。
 だが、普段は食事が必要ない、食中毒の心配もないレプリロイドに提供される食事は、温かくもなければ美味しいものとも言えない。そもそも、味覚センサーを持っていない者も多いのだ。
「温かい食事……ねえ」
 ゼロが、エックスと数週間過ごして判ったことといえば、この少年型レプリロイド……本人はロボットだとの主張を譲らないが……はひどく人間に似せて造られているということだ。味覚センサーはおろか、彼は『泣く』ことすらしてみせる。それがどんな意味を持つのかは知らないが『ロボット』たちがいた時代には、神をも恐れぬ所業だったに違いない。科学の発展を望むくせに、非科学的な神を奉り、科学の発展の邪魔をするのだから、まったく、人間は面白い存在だ。それゆえ、ゼロは理解に苦しむのだが。
「お前、温度感知もできるのかよ」
「ふつう、できるんじゃないの?」
 実は、ゼロにはできる。旧式は旧式でも、意外と金をかけて造ってもらえたらしい。
 だが。
「できないヤツ、多いぞ? シータもできないしな」
「そっかあ」
 エックスはすっかり、ゼロの周りと打ち解けた。
 元々目立つタイプのゼロが、研究用の特殊な少年型レプリロイドを預けられた、という噂はあっという間に施設内に広まった。それを聞きつけた野次馬根性溢れる者が、困っているゼロなんか珍しいから一目見てやろうとちょっかいをかけたりし始めたのだ。
 特に、元お手伝いレプリロイドのシータは子どもが好きらしく、何かと理由をつけてはゼロの部屋に遊びに来るようになった。
「シータは一緒に行かないの?」
「アイツは外せない講義があるから、誘ってない」
 言いながらロッカーを開けて、ゼロは服を着替え始めた。
 着替え終わると、机に置いておいたIDキーホルダーを腰につける。
「おし、早いけど行くか。チェバルだとあまりスピード出ないからな。そもそも、お前乗せてたらスピード出せないし」
「ちぇばる?」
 ライドチェイサー。バイクみたいなもんだ。
 ゼロはそう言いながら、エックスを引き連れて部屋を後にした。

「わー! はやいはやーい!」
 前に乗ってチェバルを操縦しているゼロに掴まりながら、エックスはキョロキョロと流れる風景を見ていた。
「おい、あんまり身を乗り出すな。危ないぞ」
 ちら、と後ろを確認しながら、金髪の青年が言う。
「あれが、街?」
 この少年は、ヒトの話をぽいっと放り投げ、ゼロに疑問を投げかけた。
 目の前にはビル群と緑の織り成すコロニーが拡がっている。
「……そうだ、あれが街。イレギュラーハンターが守る、人間の住むところだ」
 言いながらゼロはアクセルを緩め、近くの駐車スペースにチェバルを停めた。
 その無骨なマシンからエックスを降ろすと、彼はIDキーホルダーを使って、チェバルのエンジンを切り、車体にロックを掛ける。
 と、街全体に荘厳な鐘の音――正確に言うとデジタル音なので鐘の音とは言えないのだが、周波数や音階的に完璧に再現されているので鐘の音でもいいだろう――が、鳴り響いた。ゼロが体内時計と照らし合わせてみると、これはどうやら午前十時を示すもののようだった。
「おい、チビ」
 ゼロが呼びかける。
 キョロキョロしていたエックスは、ぷうっと頬を膨らませ(余談だが、これをできるレプリロイドもすごく珍しい)ゼロに近づき、その無愛想な青年の胸部にポカポカとグーパンチをお見舞いした。
「ボクのなまえはエックスです。いいかげん覚えてよ!」
 ゼロがハイハイ、と生返事をする。
「ちょうど良かったな。店が開く時間だ。何が食いたい?」
 名前のことは適当にはぐらかしたゼロだが、
「エックス、ってよんでくれるまで、ごはん食べない!」
 エックスには効かなかったらしい。
「え、飯食わないって……じゃあ帰るか?」
「でも、あったかいものが食べたいから、ごはん食べるまで帰りません!」
 いつの間に学習したのか、エックスはゼロを困らせる一言を繰り出した。
「帰らないって、お前なあ……」
 怒ろうと思ったゼロだが、うーん、と考え込んだ。
 俺もエックスに『お兄サン』と言われるのは嫌だったな……割とすぐに直してくれたけど。あー、そか。俺は未だに、それと同じことをしてるのか。それは確かに駄目だろ。
「スマン、悪かった」
 ゼロがそう言うと、エックスはぷぅ、とますます頬を膨らませた。
「なまえ!」
 あー……。
 決まり悪そうに、ゼロがこめかみに手をやる。
 そして一息つくと、
「……エックス」
 ぼそっ、とその名を呼んだ。
 途端、さっきまで膨らんでいたエックスの頬がバラ色に染まる。それを見て、こんなに人間くさいなんてなどと思わず、なんだか嬉しく思ったことは、壊れるまで秘密にしておこうとゼロは思った。
「ん、ごうかくです!」
 満面の笑みで言うエックスに、ゼロは慣れない笑顔を向けた。

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To be continued…


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