【小説】岩男X/My fair_Angel!LV.02『寂しくなんかない』


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 ばさっ。
 ゼロがシーツをこよって作った境界線を、部屋の真ん中においた。
「こっからそっちがお前の領域。こっちはオレだ。こっち来たらぶっ飛ばす」
「うん」
「うん、じゃねぇ。『はい』だ」
「はい」
 ゼロがベッドに腰掛けた。
 エックスは自分の領域に置かれたイスに、ちょこん、と座る。
 その姿は、少し寂しそうに見えた。
「……」
 自分の部屋だというのに、とてつもなく居心地が悪い。
 どれもこれも、コイツのせいだ。
 ゼロはそう思い、目の前の少年型レプリロイドをきっと睨みつける。エックスはそれに動じることもなく、まっすぐにゼロを見つめる。
 機械音が聞こえそうなほどの礼儀正しさに、ゼロは嫌悪感さえ覚えた。眉をひそめて、機械仕掛けの少年から目を逸らす。
「お前、なんか気持ち悪い……。最初……人間と間違えたけど、やっぱレプリロイドだ……しかも、あんまり出来よくないな」
「ボク……レプリロイドかな? お父サンにはロボットって呼ばれてた気がする」
 目眩がする。いつの時代の呼びかただ、それ。旧時代じゃないか、その呼びかた。
 そう言おうと思うと、エックスが突然立ち上がった。
「お兄サン。ボク、ノド乾いた」
「は?」
 ノド乾いた。目の前の少年型レプリロイド……いや、本人はロボットだと言っているが……は、そう言った。
 信じられない。
 緊急用の電源として、レプリロイドは食品と飲料を摂る。しかし、生き物ではないので、ノドの渇きだの、飢えだのとは無縁だ。
 ……無縁な、筈なのだ。
「乾くわけねーだろ」
「ノド乾いたの。なにかくれませんか」
「いい加減にしろよ」
「……? ボクは真面目に言ってるよ」
 真面目に言っているらしい。
 本当か。
 本当に、コイツ、ノドが渇くのか?
 昨日、トレーニングをした際に、動力炉を冷やそうと思って飲んだ飲み物がまだ残っていた筈だ。
 ゼロはそう思い、ベッドから立ち上がって冷蔵庫を漁った。
 ……あった。
「ほら、飲め」
 エックスに手渡すなり、彼はペットボトルの蓋を急いで開け、ノドを鳴らしてその水をあおった。
 その姿は、ノドの渇きを癒しているようにしか見えなくて、ゼロはその不気味さに戦慄を覚えた。
(……なんだ、コイツ……?)
「ぷはっ。ありがと、お兄サン。本当にノド乾いてたんだ」
「ああ、そうか……」
 エックスがにこり、と笑う。
 屈託のない笑顔。
 その瞬間、ゼロの脳裏に、なにかが浮かんで消えた。
「なぁ、お前さ。本当にどこかで会ったことがないか?」
「判らない。ボクにはまだあまり、メモリーがないから」
 それも本当らしい。
 どうやら彼は、あまり嘘をつけないように設定されているようだ。
「でもさ、お前」
 なにか、引っかかるんだよ、お前のその声も顔も。
 言い掛けたとき、来訪を知らせるチャイムが響いた。
『ユーリィ が 来訪しています。 入室許可 しますか?』
「ああ、してくれ」
 彼が入室許可を出すと、ユーリィはたった一つだけ紙袋を抱えて入ってきた。
 ユーリィは部屋を見るなり、はぁ、とため息をついた。
「ゼロ。あまりいじめないであげてちょうだい」
「別にいじめてない。これは一つの共存方法だ」
 屁理屈こねられても困ります。
 彼女はそう言いながら、紙袋をゼロに渡す。
「エックスの私物です」
 紙袋には、いくばくかの服と、何かのキャラクターが入っていた。
「これだけか?」
「これだけです」
 少なくないか。ゼロは言おうと思ったが、なんだかエックスを哀れむようで言えなかった。
「じゃあ、私はこれで。……くれぐれも、エックスをよろしく」
 彼女が去り、ドアが閉まってまたロックがかかる。
 ゼロが紙袋に目を落とした。何かのキャラクターが目に留まる。
 気になって引っ張り上げたところ、それはCPUを積んでいない、旧式のメットールだった。
「あ、ボクのメットール!」
 それを見たエックスが嬉しそうな声を上げ、境界線のシーツを越えてゼロのほうへ来た。
 ゼロがそれを渡すと、エックスはぎゅ、とメットールを抱きしめる。
「お父サンがね。寂しくないようにカプセルの中に一緒に入れてくれたの。ボクはずーっと眠ってなきゃいけなかったから」
 それを見て、ゼロは夢を思い出した。
 夢に現れるあの少年も、夢だから判るのだろうが、ずっと眠っていたあと起こされたはずだった。
「辛くないか」
 つい口をついて出たその言葉に、エックスが驚き、ゼロを見つめる。
 ゼロはさっきエックスが自分にしたように、まっすぐにエックスを見つめた。もう、エックスから気持ち悪さは感じなかった。
「つら、かったよ……。うん、辛かった」
 えへへ、と力なく彼が笑う。
「でも今は平気。お兄サン、一緒にいてくれるんでしょ?」
 ふー。
 ゼロが諦めたように息を吐いて、少しだけ笑う。
「一年だけだ。オレも、そんなに暇じゃない。一年だけ、一緒にいてやる」
「うん。それでいい。それで、寂しくなんかなくなるから」
 ここに、ハンター候補生と研究用レプリロイドの、妙な共同生活が開始された。

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To be continued…


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