【小説】岩男EXE/inter_weB AnotherSite『隣り合った世界の、お祝い。』


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<<【小説】岩男EXE/inter_weB AnotherSite『熱斗の隠し事』
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『ケーキ』
 恨めしそうな顔をしながら、エグゼが熱斗を見た。
 熱斗の目の前には、美味しそうなケーキ。メイルが作ったのだという。
「なに? エグゼもメイルのケーキ喰いたい?」
 食べたくない、と言ったら嘘になる。
 だけど、正確に言えば、メイルの作ったケーキが食べたいわけではない。
 一緒に、同じ味のケーキを分け合いっこしたいのだ。
 人間のような複雑な顔をして、エグゼは口ごもった。
「それよりさ。これ、撮ってくれない? なるべく360度、全部」
 キミって小さい時から、そーゆーところが結構鈍感。
 内心そう思いながらも、エグゼは諦めた。熱斗は熱斗のままなのだ。
『いいよ。綺麗なケーキだもんね』
 熱斗がPETをケーキ沿いに回すと、エグゼは自らの眼を介して、ビデオを回し始めた。
「よし、撮り終わった。加工頼むよ」
 エグゼはビデオはビデオとして保存しておき、画像で15度ずつのスクリーンショットを作り、判りやすく連名にして新しく作ったフォルダに入れた。そして、ビデオは圧縮してPETのデータ階層奥に放り込む。
 熱斗はそれを確認すると、
「いただきます」
 そう言ってフォークを持ち、ケーキにサクッと切れ込みを入れて、大きく開けた口に入れた。
「……うん、まぁ、そうだよな」
 彼はそう言うと、なぜかPETではなく、メモ用紙を取り出して何かを書き、メモ用紙をしまった。それから、PETに外部機器をつなぐと、先ほどエグゼが作ってくれたフォルダをコピーする。
「一旦ごちそうさま」
 熱斗はそう言って、貰った箱にケーキと保冷剤をしまうと、よしっ、と頷いた。
「エグゼ、出かけようか」
 呼ばれたエグゼは戸惑い、思わず訊く。
『どこに?』

 **********

 訪ねたのは、隣の家。つまり、桜井家だ。
「もうっ。熱斗、おっそーい!」
 メイルが、ぷーっと頬を膨らませて待っていた。
 それどころか、炎山、デカオ、やいとまでいる。
「しょーがないだろ。だって、コイツ、本当に鈍感なんだもん」
 熱斗もふくれっ面をして言い返す。
「ちょっと光くん、まさかロックマンに説明してないの?」
 やいとの問いに、
「え? だって、こーゆーのってサプライズの方がいいだろ? エグゼ鈍感だし」
 と、熱斗は相変わらずのふくれっ面で言い返す。
「それよりも、ケーキ壊してねぇだろうな!」
 デカオが言うと、
「ちゃんと持ってきたよっ! 味も一緒にしたかったから、ちょっと味見して、その部分だけ崩れてるけどっ」
 熱斗は持ってきた箱を掲げた。
 それを炎山が受け取り、中身を確認する。
「大丈夫だ。ガサツなお前のわりにはよくやった」
「ガサツな、は余計!」
 熱斗はイーっと歯を見せると、やいとに外部機器を渡した。
「……っと、グライド。写真これでいい?」
 やいとが自らのPETに外部機器を繋げる。
『はい、確認しました。大丈夫ですよ。さすがロックマン、仕事が丁寧ですね。では、データを作りますので少々お待ちを』
 エグゼはジト目で熱斗を見て、説明を促す。
「……あ。怒って、る?」
 熱斗が恐る恐る訊くと、エグゼは悲しそうな目をした。
『怒ってるというか、仲間はずれにされて、ボクすごく嫌だな』
「あっ、えっと。仲間はずれにした訳じゃなくてっ。その、サプライズ! サプライズしようとっ」
 熱斗が慌てて弁明すると、メイルがはー、とため息をついた。
「だから言ったのに。『ロックマンは鈍感だから、ちゃんと言わないとダメだよ』って……」
「アンタ、ヒトデナシだわさ!」
「お前、ネットバトル以外ホントダメだな!」
「猛省しろ」
 口々に言われて、熱斗は上を向いて、あーもうごめんっ、と叫んだ。
「今日はオレの誕生日だから! つまりオレたちが出会った日だろ! みんながお祝いしてくれるっていうから、一緒にケーキ食べたかったんだよっ! ホントごめんっ」
 そう言われても、エグゼの顔は腑に落ちてはいない。
『誕生日……? 出会った日……?』
『まさか、忘れてたの?』
 ロールがそう言うと、エグゼはえっ……と言葉を濁す。
 不審に思ったのか、ガッツマンが熱斗のPETに入ると、途端に大声を上げた。
『このPET、日付が一ヶ月ズレてるでガッツー!』
 その声に、熱斗とエグゼ以外が全員ため息をついた。
「なんでPETのメンテしてないのよ……」
「そりゃあ、常日頃、忘れ物多いはずだわよね……」
「なんで気づかねぇんだよ……」
「それでよく、あれだけのネットバトルが出来るものだな……」
 口々に言われる中、熱斗が怨念のようなものを感じて自分のPETをのぞき込むと……
『ネ~ット~……!』
 小言モードに入りそうなエグゼが、そこにはいた。
 熱斗がごめん、と謝る寸前、エグゼはぷっ、と吹き出す。
『いいよ。許してあげる。ところで、ケーキって、どう作るの? 父さんのチップみたいにするんでしょ? 楽しみだなぁ、どんな味だろ』
 彼がそう言うと、待っていたかのようにグライドがええ。と話し出した。
『形状はできあがりましたので、炎山さんにお渡しします。よろしくお願いしますね』
 ああ。
 炎山がそう言って引き継ぎ、データをPETに読ませた。
「これに、プログラミングで味付けしていく訳だが……。光、味はどうだった?」
「んーと……。旨い」
 お前に訊いたオレがバカだった。
 炎山はそう言うと、メイルに視線を投げる。
「生のサクランボを入れたの。生クリームの部分はそんなに甘くしてないよ。全体的には重く感じなくて食べやすいと思う。飾りの部分はスミレの砂糖漬けを使ったの。あっ、生地を作るときにちょっとラム酒を入れてあるよ」
 さすが桜井。いい趣味だ。
 そうこぼしつつ、炎山はブルースにコードを渡していく。
『炎山さま。多分、これでだいたいの味は再現出来たと思われます』
 ブルースが言うと、炎山が短く、ご苦労、といい、メモリーを外した。
 それを自分の持ってきたノートパソコンに刺して、ローカルサーバーを立ち上げると、その電脳空間にケーキデータを展開した。
 ロール、ガッツマン、グライドがその空間にプラグインして、ケーキを囲む。
『さあ、ロックマンも!』
 みんなが見守る中、熱斗は、エグゼをプラグインさせた。
『……すごいいい匂い。美味しそう!』
 エグゼが、唯一プラグインしていないブルースに向かって声を掛ける。
『ブルースもおいでよ!』
 しかし、ブルースは腕を組み、冷たい声でいう。
『オレは炎山さまのご命令がないと動かん』
 炎山ははぁ……とため息をつき、プラグをノートパソコンに繋いだ。
「じゃあ、命令だ。食べてこい。お前が味付けをしたのに喰わないなどということを、オレは許さん」
 ブルースは一瞬固まったが、
「……お父さまには内緒にしてやる。食べてこい」
 この言葉は炎山が出来る精一杯の優しさだと知ると、
『……! で、では、そうさせて頂きます!』
 と、少し嬉しそうにして、プラグインした。
「じゃあ、始めようぜ!」
 デカオの一声で、熱斗とエグゼ以外の全員がクラッカーを持つ。
「熱斗&ロックマン、おめでとう!」
 パァン!
 紙吹雪を浴びながら、現実世界の熱斗と電脳世界のエグゼは、同じ顔で笑う。
「みんな、サンキュー!」
『みんな、ありがとう!』

 それは少し隔たれた、でも、隣り合った世界の、

 ある日のお祝い。


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