【小説】岩男EXE/inter_weBインターリュード『イルカ』


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 いつ来ても、科学省は大きい。
 熱斗とエグゼは、目の前の高層ビルを見た。
「今日、パパいるかな?」
『いるだろうけど、いきなりだからね。入れなくてもしょうがないかもね』
「まぁね」
 熱斗が自動ドアのセンサーに当たるか当たらないかの時…
 いきなりドアが開き、出てきた相手と正面激突しそうになった。
 熱斗が得意のスケートでよける。
「あ、危ねっ!」
「どこ見て歩いてる?」
 憎々しげに熱斗を見る相手。
 ……伊集院炎山。
「あれっ、炎山? 何でこんなとこに……」
「言っておくが、光さんはいない」
 人の話を聞かないのが得意なのか、炎山が熱斗の言葉を遮ってみせた。
 それから、すたすたと歩き出す。
「何だよ。お前もパパに会いに来たのか?」
 熱斗はインラインスケートで彼の後を追うと、すぐに追いついて、彼と横に並んだ。
 インラインスケートを含めて、やっと同じ目線になるのが、ちょっと悔しい。
「そうだ。アゲアシを取るようだが、他人に自分の父親のことを言う時は、そんな風に呼ばない事だ。……ガキっぽいぞ」
 あまりの言い方に、エグゼが苦笑いする。
『……だってさ、熱斗くん』
「……るせっ!」
 エグゼにベーっと舌を出す。
 そして、炎山に一言。
「お前も同い年じゃん」
「それから、その語尾もガキっぽいぞ」
「ぐ……」
 完全に言い負かされ、熱斗は言葉が出なかった。
『あはは。炎山くんが一枚上手だったね』
「るせっ!」
 炎山は駅とは逆方向に歩いていく。
 熱斗もそっち方向に用があって、彼と同じ方向に滑っていく。
「……どこ行くんだよ? 次のメトロは10分後だぜ? 10分っていったら……えーっと、あれだ。いくつ数えればいいんだ?」
『熱斗くん、自分で言っておいてそれはないんじゃない……?』
 炎山がため息混じりに呟く。
「600回。お前にも判るように言うと、50を12回だ」
「オ……オレだってそれくらい判るよっ! ……50を12回ってのは計算できなかったけど……」
 炎山が頭を抱えた。
「計算しろッ、計算……」
「んで、どこ行くんだよ?」
 しつこい熱斗に、炎山がびしっと言い放つ。
「公園。ついて来るな。サロマに会うだけだ」
「あのな、ついて来たくて来てるんじゃなくて、オレはサロマさんの弁当食べに行くの。……けどさぁ、『さん』つけろよ。サロマさん、年上だろ」
 ウルサイな……と言うように、炎山が答える。
「サロマとは幼なじみだ」
『ふぅん……。初耳』
 エグゼの言葉に、そうかもしれない、と炎山が相槌を打った。
「まあ、あまり2人で行動しないからな」
『だよね、年も違うし。熱斗くんとメイルちゃんのようにはいかないよね』
「そうだな。……第一、光も桜井に敬称をつけてない」
「……メイルはいいんだよ、同い年だし」
 熱斗の答えにエグゼが反発する。
『良くないでしょ? ボクはみんなにつけてるよ』
「お前が丁寧なだけ!」
 2人は同じように、サロマの屋台に並んだ。
 サロマがすぐ2人に気付き、にっこりと笑う。
「あら。お弁当? ……はい、どうぞ」
「……あ、いや……。まぁ、いい。いくらだったか?」
 炎山がお金を出そうとするのを、サロマが止める。
「いいわよ。まさか、あなたからお金取ろうとは思ってないわ。光くんにも……はい」
「えっ、いいんですか? ラッキー!」
 喜ぶ熱斗を見て、炎山がぽつっと呟いた。
「無銭飲食……」
「お前もだろっ」
 熱斗が食いつく。
『あ、あのね2人とも。ケンカしないでよ』
「そうよ。ケンカしないで。あっちのベンチで仲良くお食べなさいな」
「そだね。んじゃ、サロマさん、ありがと! ごちそーさんっ」
 熱斗がすーっと滑って、少し離れたベンチにタッチする。
 熱斗のいる場所が話し声の聞こえない範囲だ、という事を確認して、サロマがポツリと言う。
「……炎山。あの事を訊きに来たのね?」
 炎山はサロマと目を合わせないで答える。
「ああ。思い出してしまったからには……そうした方が良いと……」
「忘れなさい」
 炎山は悲しみに満ちた瞳で、サロマを睨み付けた。
「忘れられるものか。……もう2度と忘れない。オレは……」
 そして、視線を彼女から外す。
「あなたを恨んでいるなんてないと思うわ」
 サロマが透き通った瞳で、炎山を見つめる。
「……わたしは、あなたをあそこに連れていった事、後悔しているの。あの後、あなた随分辛い思いをしたって聞いた」
「サロマ、お前は悪くない」
 深い海の色をした瞳は、それを見つめ返す。
「オレは、本当に嬉しかったんだ。彼らに出会えて、初めて『楽しい』と感じられたんだ。……でも、この情景をオレが作り出してしまったのだから……」
 その瞳を、仲良く話しているオペレータとネットナビに向けた。
 そして、そのまま瞳を逸らさずに、話し続ける。
「オレは、それを背負っていこうと思う」
「でも……」
 サロマが再び反論しようとした。
「光が待ってる。じゃあ、また」
 炎山はそれを無視して、熱斗が待つベンチに向かった。
「おっせーなぁ。……ったく」
「別に待ってくれとは言っていない」
 炎山の言いように、熱斗は少なからずムッとしたようだった。
「……可愛くねェヤツ」
「女じゃあるまいし、可愛いと思われたくも無いな」
 今度は明らかにムッとしている。
 熱斗が頬を膨らませて、ボソッと言った。
「……やなヤツ~」
「誉め言葉として、受け取っておこう」
 炎山が静かにベンチに座る。
「どうした? 食べないのか? 先に食うぞ」
「食うよッ、オレだって!!」熱斗がどかっとベンチに座る。
 2人ががさがさと包装を開いた。
「いっただっきまーすっ!」
「いただきます」
 少し食べて、はっと思い返し、熱斗は隣のライバルに聞いた。
「なぁ、パパに何の用?」
 炎山は行儀よくご飯を食べて、紙ナプキンで口を拭いてから答える。
「ちょっとした昔話を聞きたかっただけだ。たいした用事でもない。……記憶が正しければ、オレは8年前に光さんに会っている」
 熱斗は軽く頷いて、ご飯をかき込んだ。
 それから、行儀悪く、箸でサトイモを突き刺す。
「8年前、何かあったのか?」
「まぁな……。本物のイルカを、見たかったんだ」
 あまりのマナー違反に黙っていられなかったのか、炎山が熱斗の右手を叩いた。
 いってェ……。
 熱斗が呟きながら、箸をくわえて右手を擦る。
「何だ、それ?」
「……何でもない。ところで、それも行儀が悪い。くわえ箸だ」
「るせっ! 食いモンがうまきゃ、何でもいいんだよ!」
「周りの迷惑も考えろっ、無節操なヤツめ!」
「あーもぉ、お前も結構お説教好きなッ? エグゼと同じでっ」
『……』
 エグゼは、黙っていた。
 あの記憶を持っているのは、大人たちと『彩斗』。それだけだったはずなのに。
 彼も、この記憶は思い出してはいけないはずだったのに……。
「エグゼよりは、オレはお説教しないと思うぞッ?」
「してる、してる。うるせえもん!」
「お前があまりに行儀悪いから、つい突っ込みたくなるだけだッ!」
 炎山の記憶は、正しい。
 彼と祐一朗、そして双子は8年前に会っている。
 そして、それが……
 『彩斗』とは最初で最後の対面となっていた。


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