『オナ禁始めました』のさとーさんからバトン頂きました。
さとーさんのところは、その名の通りのサイト……というかBlog。
よく、ブログエントリタイトルが『1日目』に戻ってるから、彼の性生活がなんとなく分かってしまうというね!
おい、さとーさん、お前すげぇよ。勇者だと思うよ!
お題は『卒業』。
それじゃ、参りましょうか!
まこらむ番外編12『卒業』
「卒業かぁ」
ぱるなちゃんが僕の隣で呟いた。
目の前の通路。
僕の想い人だった、きなこ先輩がたくさんの花束を抱え、晴れやかな顔で通っていく。
「うっ、ううう……。きなこチョコ親衛隊も今日で解散かぁ……」
大勢の学生が、青空を見上げて涙をこらえていた。
文武両道、才色兼備なきなこ先輩には親衛隊があったのだ。
きなこ先輩は、所属はこっちの大学だけれど、新年度が始まってすぐにカナダの大学に留学するらしい。なんでも、ペンフレンドがいて、そっちに行きたいと猛烈に勉強したのだとか。
「すごいね、きなこ先輩!」
「そうだね」
僕たちは顔を見合わせ、頷いた。
「……あれ?」
校門の方に目を向けると、金髪の美女がいる。
美女は、何かを見つけると、脇目も振らず、その目標に向かって爆走してきた。
爆走、と言ったけれど、本当にその通りで、土煙を上げそう、っていうか本当に上げてる。
目が血走ってる、っていうか、本気というか、ちょっと殺気立ってるっていうか。……ちょっと怖い。
「キナコ!」
「えっ……! エスタルシア!」
エスタルシア、と呼ばれた美女は、バッとジャンプすると、そのまま、きなこ先輩に抱きついた。
「キナコー! キナコ、会いたかった!」
「エスタルシア、日本語! 日本語喋れるようになったの?!」
きなこ先輩が目を白黒させながら叫ぶと、エスタルシアさんはきなこ先輩を離し、ものすごい勢いで首を振った。
「キナコが英語習う、ワタシ、ニホン語習わない、平等じゃないワ! だから、秘密の特訓したのヨ! オモイーコンダーラね!」
「エスタルシア……」
きなこ先輩が微笑む。とても可愛い。
エスタルシアさんが、きなこ先輩の手を取る。
「しばらく、ニホンに滞在するの! キナコ、どうせ4月にはワタシのwifeなんだし、一緒に住みましょ! キナコのご両親の許可も取ったわヨ!」
彼女の爆弾発言は、周りの人の度肝を抜いた。
「ええーっ?!」
「ワイフって……奥さんっ!」
「女同士でー?!」
周りは阿鼻叫喚だ。中には倒れる男子学生も出てきた。
「きなこ先輩ッ、嘘ですよねッ」
「俺たち、きなこ先輩がレズビアンだなんて、認めたくねーっす!」
その言葉を受けて、きなこ先輩はオロオロし始めた。
彼女の目には、涙がたくさん溜まっている。
あまりにも失礼な言い方だ。僕はものすごく憤慨した。
僕だって、びっくりした。
びっくりはしたけれど。
どうして、性的嗜好まで、否定するようなことを言われなくちゃいけないんだ。
「ぱるなちゃん。ここで待ってて。もし、僕が変なことしでかしてたら、先生たち呼んできて」
僕はそう言い捨てて、きなこ先輩たちの元へ歩く。
「だって、きなこ先輩みたいに綺麗な人が……!」
僕は、きなこ先輩を庇うように立つと、まだ言っているその男の先輩の顔に、僕は平手打ちを食らわした。
「黙れよ」
何人かは僕の顔を覚えているのだろう。あっ、と人差し指付きで、声を上げる。
「コイツ、前にきなこ先輩に失礼なことした二年坊だぜ!」
「なんなんだよお前!」
浴びせられる罵倒も、今は何も感じない。
とにかく僕は、すごく腹立たしい。
僕は周りの、何か言ってくる奴らを睨みつけて、目一杯の低い声で言った。
「いいから黙れよ、クズども」
「うさぎ使いくん……」
きなこ先輩の声が後ろから聞こえた。
そうか、僕はうさぎ使いって覚えられてるのか。
そんなことを思って、ちょっと笑う。
「てめえ、笑ってんじゃねーぞ!」
一人が僕の顔面めがけて拳を振り下ろした。
僕が女みたいな見た目だから、弱いと思っているのだろう。
僕は、すっ、としゃがみ、相手の足を払う。
相手が倒れ込んだのを確認して、立ち上がり、ほこりをはらって、僕は全員を見渡した。
「誰が誰を好きになろうが、そんなの自由だろ! なんでみんな寄ってたかって、きなこ先輩を否定するようなこと言うんだよ!」
僕は忘れない。
「きなこ先輩と、エスタルシアさんが幸せになればいいとか、そういうこと」
あの事件の後、改めてきなこ先輩に謝りに行ったら、全然気にしてないよって、言葉と態度、全部で示してくれたこと。
「どうして誰も言ってあげれないんだよ!」
きなこ先輩がそんな、本当に素晴らしい人であること。
「みんな、きなこ先輩のこと好きだったんなら」
僕は忘れたくない。
「だったらなんで、その好きな人の、新しい門出と幸せ祝ってやれないんだよ!」
「こらー! お前ら、なにやってる!」
ぱるなちゃんが呼んだのだろう、先生が数人、駆けつけてきた。
事の発端を作った者として、きなこ先輩まで怒られるかもしれない。
それは僕の望むところじゃない。
「きなこ先輩、エスタルシアさん、逃げて!」
僕が言うと、きなこ先輩は戸惑う。
「で、でも!」
「怒られるのは僕たちだけでいいんです! だから!」
彼女はやがて決意して、こくりと頷いた。
「ありがとう、うさぎ使いくん!」
そう言うと彼女たちは、校門の向こう側へ走って行った。
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結局、誰も原因を言い出すことができず、僕たちはこってり絞られてから、家への帰路についた。
「かっこよかったよ、ヒビキくん!」
大好きなぱるなちゃんに言われて、僕はちょっと誇らしかった。
モヤモヤは残るけれど。
僕は、一つの差別的思考から、卒業できたのかもしれない。
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お次は『羊の水海』の早尾さんに。
お題は『LGBT』でお願いします!