【小説】賢い犬/あくまでマジカル☆ユキターナ&サクラリタ Lv.01

「おい、姉貴」
さくらが眉をひそめる。
「なに?」
ゆきはご機嫌だ。
2人の目の前には、ぶさいくなウサギ。
そう、ぶさいくな。
ウサギはボヨンボヨン跳ねて、とても上機嫌そうだ。
「このウサギ、何で連れて帰ってきたんだよ! つーか、姉貴、カナリーナに貰った魔力、消えてねーのか!?」
「そう、消えてないのだよ、ふふふーん」
ゆきが得意げに弟に自慢する。
弟は、この小悪魔ガールのいうことに愕然とした(ように見えた)。
「姉貴に魔力……っ! 最強すぎる……っ!」
「さくらのわき腹を、離れたところからくすぐることも出来るよ?」
これには、普段ポーカーフェイスのさくらも青ざめた。
さくらの唯一の弱点。それは、わき腹。
他のところなら、いくらでも笑いをこらえることが出来るのだが、わき腹だけはどうにもならない。腹筋をしてみたり、努力は一通り試みた。だが、彼はわき腹が弱いままだったのだ。
これはこの姉弟だけの秘密。
ゆきのワガママ(?)にさくらが付き合うのも、そういう弱みを握られていることも少々あるのだった。
「頼むっ、勘弁してくれ……!」
「ううーん、どうしようかな?」
ゆきの頭から角が2本、にょきっと生えた。
「よーし、わたしのワガママに付き合ってくれたら、勘弁してあげよう!」
そう言って、にっ、と笑うゆきを見て、さくらは覚悟を決めたのだった。

 

あくまでマジカル☆ユキターナ&サクラリタ
Lv.01

 

 

「で、何でこんな変装を?」
2人は、メガネにキャスケット帽を目深に被るといういでたちで、商店街のとあるお店の前に来ていた。
「まあまあまあまあ。基本でしょ、基本」
何がだよ。
さくらが呟いたのが、ゆきに聞こえたらしい。ちっちっち、と指を振って、判ってないなぁ、と言うゆき。
「正義の味方は正体がバレてはイケナイのだよ」
あ、そ。
さくらが呟いて、ため息ひとつ。
そんな弟の憂鬱な心など露知らず。ゆきがあ、ほら。と店の前のワゴンを指差す。
「もうすぐ敵幹部のおでましよ」
敵って……誰を敵にすんだよ。
もっともなさくらの呟きは、今度は聞こえなかったらしい。ゆきはワゴンのほうをじっと見ている。
さくらも、ふと、視線をそちらに移すと。
「なんだ?」
サングラスをかけた、見覚えのある3人が、これまた見覚えのある白人の女性にどやされている。
「……アキラさんとジョーさんとケンジさんとオリガ嬢じゃねーか」
すると、アキラが、薄手の箱を両手に持ってこんな呼び込みをはじめた。
「八城温泉名物、黒服温泉まんじゅういかがっすかー?」
ジョーとケンジもそれに続く。
「組織の味は秘密の味ー!」
「よって、試食品はないんであしからずー!」
「今なら秘蔵の令一郎さまの生写真(のコピー)をつけてもいいわよ!」
……組織って、こんなバカだったのか。
唖然とするさくらの横で、ゆきがキリッと言う。
「悪の資金源にするつもりだわ……! あの人たち、なんて恐ろしいの……!」
いやいやいや、恐ろしいのは姉貴の思考回路だから。
さくらは心の中で突っ込んだ。
平和な町の住人たちは、面白がって、我先にと買っている。
実に平和な光景じゃないか、これ。
ところが、まじめな顔のゆきが、さくらの手を引いて、スタスタとヒト気の無いところに出た。
「さくら! 変身よ!」
「いや、オレ出来ないし」
当然の言葉は、ゆきによって遮られた。
「わたしの魔力でさくらも変身させるから!」
そんなの、冗談じゃない。
「も、もうオレはいいだろ? 姉貴ひとりで……」
出来るよな?
の言葉も、遮られた。
「わき腹」
その一言で、さくらの身がギクリ、と固まる。
「いいのかなー、さくら。さくら、本当にいいのかなー?」
この姉なら自分が笑い死ぬまでやりかねない。
さくらは再度、覚悟を決めた。
「判った。判ったから……」
「じゃっ、いくわよ! まじかる☆ラジカル!! へーんしんっ!」
しゅばっ!
ゆきはカナリーナと同じ格好を身にまとわせ、その頭に魔力の源のツノを生やした。
しゅばっ!
さくらは……
「……なんで姉貴と同じ格好なんだ…………!」
双子だからだろうか? ゆきとまったく同じ格好。
笑い死にを選んだほうがよかったかもしれない、と本気で後悔したのは姉には内緒だ。
「行くわよ、サクラリタ。わたしのことはユキターナって呼んでね」
名前まで決まってるのかよ。
ぼやいてから、先に行ってしまった姉を追いかけていくさくら……いや、サクラリタ。
先に店の前に到着したユキターナは、住民と黒服の注目を浴びている。
「姉……ユキターナッ!」
サクラリタが呼びかけると、その注目が彼に集まった。
ユキターナがサクラリタと合流し、黒服たちにびしっと人差し指を向けて言う。
「ただいま参上、正義の魔女っ子・ユキターナ!」
つられてしまって、
「同じく正義のサクラリタ!」
サクラリタも決め台詞らしきものを言う。
「あくまでマジカル☆ユキターナ&サクラリタ!」
こういうのを異口同音出来るのは、やっぱり双子だからなんだろうなぁ、とさくらがぽけーっと思う。
「シュバインさんの部下たちよ!」
「とっとと温泉に帰れ!」
すぐそのあと、サクラリタははっと我に返り、恥ずかしさのあまり、しゃがみ込んだ。
「誰がシュバインの部下ですって? わたしは令一郎さまの部下よ! そして、サングラス組はわたしの部下!」
オリガがとっさに言い返す。
「おい、ちょっと待て! ジョーとケンジはともかく、オレはお前の部下になった覚えはねぇ!!」
アキラが彼女に反論する。
「いや、オレらもさ」
「オリガさんの部下になった覚えはないなぁ」
ジョーとケンジも彼女に反論する。
「なんですって!」
オリガとサングラス組がギャーギャーと喚きだす。
「今よ、サクラリタ! 双子パワーであの人たちを温泉まで吹き飛ばすわよ!」
「ど、どーやってだよ!?」
ようやく、自分の格好に羞恥心も無くなったサクラリタが、ユキターナに聞く。
「わたし、ブラックマジック。サクラリタはホワイトマジックね。で、『飛んでけ☆マーブル・スクリュー』ってどお?」
「それは姉貴が必死こいて見てるアニメの決め技だろうが!」
「いいからいくわよ?」
せーのっ!
「『ブラックマジック』!」と、ユキターナ。
「ほ、『ホワイトマジック』」と、サクラリタ。
そして、2人で。
「『飛んでけ☆マーブル・スクリュー』!!」
どかーんッ!!
今日は晴天。ゆえに、商店街のステンドグラスアーケードが日差しを遮断しきらないように少し隙間が空いていた。
4人はまともに『飛んでけ☆マーブル・スクリュー』を受け、そのアーケードの隙間から、お星様になったのだった。
「いえーいっ! 勝利っ!」
「も、もう帰りてぇ……!」
そんな2人を、遠くから見つめていた少女・うさみが頬を赤らめ、呟いた。
「春永くん、ステキ……!」

アジト、執務室。
「シュバインさん、何気なく売ってただけなのに、失敗しました!」
アキラとジョーとケンジが自分たちの上司・シュバインに頭を下げた。
オリガはわたしのせいじゃないわ、とシュバインに言い残し、すでにアジトを去っている。
「で、残りの黒服温泉まんじゅうは?」
シュバインに聞かれ、サングラス組は顔を青くさせた。
「あ、あれ、丸ごと置いてきちゃったよな?」
「あ、ああ。結構あった、売上金ごとな……」
ふぅ~。
シュバインがタバコの煙を吐いた。
「いいか、あれはウチの大切な資金源なんだぞ? 死んでも守れと念を押しただろうが」
「す、スミマセン……」
ふと、シュバインはスイッチのようなものを持った。
「と、いうわけで、だ」
ぽちっとな。
「おしおきだ」
サングラス組の足元に、ぽっかりと穴が開いて、3人が落下を始めた。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
途中、ロボットアームがあり、トランクスだけにされる3人。
どっぼーん!
下は熱湯だった。
「あ、あっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「どこぞの番組の1コーナーかっ、このおしおきはぁぁぁ!!」
「ねこっ! 助けてくれっ、ねこ――――――――――っ!!」
それぞれ苦しむサングラス組の面々。
「ねこさん、助けなくていいぞ」
非情な声が上から降ってきた。
『しかし、アキラたちが……』
スーパー宇宙ねこの声に、そうだな、と考え、妥協案を出すシュバイン。
「ねこさん、3分したら助けてやってくれ」
『だ、そうですので、3人とも、3分お待ちください』
「無理無理無理! この人でなしー! ……って、猫だったんだよな、忘れてた!」
「3分って、カップめんが食えるようになるぞ! ウルトラマンだったら死ぬし!」
「ねこっ! 頼むから、どーにかして助けてくれーっ! もう無理だぁぁぁぁぁ!」
『あと2分少々お待ちください』
「ぎゃああああああ!」
サングラス組の面々は、この日はとてもじゃないが、温泉なんぞに入る気分ではなかった、と後に語っている。

「む、ゆき。このおまんじゅうはおいしいですな」
「そうだね、おいしいね」
「…………」
「さくら、あんたどうしたの? さっきからブツブツ呟いて、顔色も悪いわよ?」
『きっとさくらは、なにか嫌なことでもあったのよ』
「さくらくん、おいしいものを食べて元気出すといいよ。ほら、ゆきちゃんとキミが貰ってきたおまんじゅう、おいしいよ?」
『モギュー……』
日野家は今日も平和だった。
「……」
さくらを除いて。