【小説】オリジナル/ブルプリ/Stage02『アルトとアルフレッド』


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「あ、」
 ベッドの中で荒い息遣いと共に漏れる声は、アルトのものだった。小さな身体に似つかわしくない低めの声は艶があり、それは夜の色を帯びていた。
「あまり大きな声出さないほうがいいよ」
 後ろにいたアルフレッドが彼の口を手で塞いで、腰を打ち付ける。
「!」
 アルトが悲鳴を上げると、
「だからさ、起きちゃうから」
 と、アルフレッドがアルトの耳の近くで言う。
「だっ、て……お前が」
 そう。彼らの隣には、すっかり眠っているリノ。だから、そんなことをしている状態でもないのだが。
「仕方ないでしょ。キミの魔力切れたら、ビオトープなくなっちゃうし」
 このビオトープはアルトが魔力……生命力とも言い換えることができる……で作っている。アルフレッドが受け継ごうとしたが、彼は魔法の素質が殆どなく、構造が複雑な魔法は継承できそうになかった。
 しかし、身体が子供であるアルトは、生命力が弱いため、本当はこんな大掛かりな魔法には向いていなかった。ビオトープを形成してから、彼は何度も生死の境を彷徨うくらいに体調を崩した。
 対策を講じないといけない。
 この双子は自分たちのチャクトワーフトやギルドの仲間に情報提供してもらい、魔力の源が生命力であることを突き止めた。
 そこでアルトは、アルフレッドから『生命力』を貰って、それで『食いつないで』行く道を選んだ。元々、恋人同士のような仲だった二人だから、別にそうなるのもやぶさかではない。そんな二人が毎日肌を重ねるようになっただけの話だ。
「は……ッ」
 アルトが苦し紛れにシーツを握りしめる。声を出せないのが辛い、と彼はぼんやり思う。
 アルフレッドのことは大切だ。ただ、愛してはいない。そもそも、チャクトワーフトとの契約時に、『愛』という感情を媒体に使われてしまったアルトには、人を愛することなどもう二度とできないことだ。
 だが、人間は強い。彼は『執着』で愛を補っている。それは愛より醜くて、汚くて、みっともないけれど、でも確かに今、彼はアルフレッドに執着している。誰にも渡したくないと想っている。
 だから、こんなに簡単に、こんなに愚直に、アルフレッドと契りを交わすのだ。
「……早くヤれっ、て……」
 アルトが苦しそうに言うと、アルフレッドが笑う。このサディストな弟は、兄が悶える姿が好きだった。
「あ、その表情ソソる。いいねえ」
 アルフレッドが体勢を変えて、小柄な兄に覆いかぶさった。アルトがビクッと震えると、その耳を食んで、自らを昂ぶらせるように囁く。
「どうされたい……?」
 アルトは首を振った。
 耳にかかる息は熱く、火傷しそうだ。自分の中に入っている部分も、まるで焼けた鉄の塊のような熱と存在感がある。
 今日はいつもより激しくて、いつもより乱暴だ。何度も何度も肌に歯を立てられたし、痣だっていくつもついているだろう。それが気持ちよくて、ねだったのも悪かったが、もう既に幾度となく果てたアルトには、これ以上は辛かった。
「……も、ヤダ、ぁ」
 弱音のような言葉を聞いて、アルフレッドは短く息を吐き、抽挿を激しくした。別段それに興奮したわけではない。むしろ腹立だしかった。
 アルフレッドは、自分がアルトに愛されていないことを知っていた。気づかないふりをしておどけてはいるが、いつも内心気が気でなかった。
 アルトのそれは執着だ。いつかそれ以上に興味を引く人が現れたら、彼は僕に見向きもしなくなる。
 それを望んでいる自分とそれを恐れている自分と、二つに別れた思考は自己矛盾を生み、いっそ気が狂えば楽になるのに、と何度思ったかわからない。
 ただ、言えること。
 アルトを、独り占めしたくて、めちゃくちゃにしたくて、そして――
 いつの間にかアルフレッドの背中に回されていた手にグッと力がこもった。その手は爪を立ててきて、少年特有の柔らかな肌を裂く。
 痛い。
 しかし、そう思うより前に、心が引き裂かれそうになった。
「はっ……。ヤ、ダ……。もう、離し、」
 心も身体も、離してくれないのはいつもキミだろ。
 アルフレッドは苛ついて、アルトに口づけた。アルトの下唇を噛んで、血を滲ませる。
 ひどい行為だ。アルフレッドが泣きそうになる。愛情表現ではない、ただの腹いせ。マーキング。自慰行為と呼んでもいい。
 それなのに、口づけを終えたアルトの唇から漏れたのは、甘ったるい吐息だった。
 こんなひどいことをしたのに、この子は理解してくれない。こうやって、快楽に身を任せて、一人悦んで。
「は、ッ。あ。ヤダ……もう、もう……」
「我慢して。もう終わる」
 冷たく言い放ち、アルフレッドは中に精を注ぎ込んだ。
「あ、っ」
 痙攣するかのようにアルトが震えた。快楽のあまり見開いた目からは大粒の涙がこぼれて頬を濡らす。
 キレイだ。残酷なまでに。
 アルフレッドは心の中で独りごちて、アルトの頬を伝う涙を舐め取った。
「ほら、終わったから離してよ。キミが離さないんだよ」
 言われて、アルトはアルフレッドを離して、荒くなった息を落ち着かせた。胸の頂点が隠れる程度の長さがある葡萄色の髪は、汗ばんだ肌にまとわりついて離れない。
「……俺、寝る。おやすみ」
 アルトの言葉に、アルフレッドは目を細めた。瞳が悲しげに潤むのを悟られないように、アルフレッドがおどける。
「つれないなあ。ピロートークは?」
 そんなもんしたいのかよ。
 アルトはそう言って、アルフレッドに背中を向ける。
「これで明日、この家増築できるだろ。で、食器とかも明日買いに行く。昨日の魔宝石はリノにやるとして、まだ換金してない魔宝石あるしな」
「デザー・ミルフェの本も欲しいし?」
 しばらくの沈黙のあと、アルトは小さく、うん。と言った。
 いっそのこと、デザー・ミルフェになりたかった。そんなことを思いながら、アルフレッドはアルトの髪を指で梳く。
「デザー・ミルフェかあ。僕、彼の本は読んだことないんだよねえ。未来のお話書く人でしょ?」
 いつもは結んでいる、長く伸ばした髪はおそろいの髪型をしている。
 昔は同じ色だった双子の髪は、いつしか変化して、今はだいぶ色が違う。アルフレッドはそれを酷く気にしていた。
「SFな」
 細っこい指は、引っかかりのない髪をサラサラと梳かしていく。普段、アルフレッドがケアをしているからか、アルトの髪は手入れが行き届いている。
「でも、日常モノが多いんでしょ? それ面白い?」
 その言葉に、アルトが向き直る。暗がりでもわかるくらいに、金色の瞳はランランと輝いていて、いかに語りたいかが見て取れる。この、暗闇で見ると猫のように光る瞳を、アルフレッドは好んだ。
「デザー・ミルフェのいいところはそこなんだよ。わかってないなあ。彼の作品に出てくる、スマホって板がキーでさ。それで遠距離の恋人同士がかわいいやり取りするんだわ。PINEっていう、リアルタイムで手紙を書けるツールでやり取りする設定なんだけどさ、『こっちは雪だけどそっちは?』『月が見える。君と見たかった』とか文字で言い合うんだ。で、嬉しいこと言われると、それ印刷してシャトレイン・チェインにぶら下げて持ち歩くんだぜ。あの描写、イイよなーって思う」
 シャトレイン・チェインは日常道具を持ち歩くための、ベルトにつける鎖のことだ。未来はもっと便利になるだろうし、そんなものが残っているとは思えない。
 アルフレッドは思ったことを口にした。
「時代考証メチャクチャじゃない? 未来ならシャトレイン・チェインじゃなくて、もっといい小物を持ち運ぶグッズがあるでしょ」
 その言葉は、デザー・ミルフェに対する嫉妬心も大いにあったことは認めなければならないだろう。
 けれど、アルフレッドの言葉に、アルトはムッとするでもなく、いやいや、とやんわり否定する。
「そこがロマンなんだよ。未来と今をうまく織り交ぜてるわけ」
 そーゆーもんなのかなあ。
 まだそんなことを言うアルフレッドに、アルトはそういうもんだよ、と断言して、眠りに落ちた。

 **********

 翌日。
「アルトくん、起きて」
「ん……」
 もそり、と動くアルトに触れるアルフレッド。キレイな肌にたくさんの跡がついていて、それはアルフレッドの独占欲を大いに満足させた。
「朝ごはん、できてるよ」
「ん……。今起きる……」
 アルトはそう言って、伸びをしてから起き上がった。首筋に、大量のキスマークと噛み跡がある。ベッド脇の鏡に映った自分にそれを確認したアルトは、無言でアルフレッドの腹に拳をお見舞いした。
「痛いよ」
「痛いよじゃねぇよ。こんなに跡残るなんて」
 アルフレッドは、愚痴るアルトの首筋にそっと触れた。途端、アルトは動かなくなって続きを待つかのように目を閉じる。
 少しだけ。アルフレッドはそう思って、アルトの下半身に触れた。驚いたことに、そこはもう熱を帯びていて、先端からは透明な蜜がこぼれ落ちていた。
「朝だから? それとも、跡に触れられたのが気持ちいいの?」
 アルフレッドはそう言って、それを舐め取った。
「んぅ、ッ」
 アルトに肌着を渡しながら、アルフレッドは舌なめずりをしてにんまりと笑う。
「はい、おしまい。ごちそうさま」
「ちょっと、物足りないけど」
 アルトは言いながら、ベッドから降りて肌着を羽織った。
「続きは夜ね」
 それを確認してから、アルフレッドはドアを開けてリビングのほうへ足を進める。
 アルトはそれに続く形で、アルフレッドに追いつけるよう早足でリビングに進んだ。
「リノは?」
「起きてる」
 二人がリビングに到着すると、先にテーブルについていたリノがクマのできた顔でにこり、と力なく笑った。
「アルトさん、おはようございます」
「おはよ。早いな」
 その言葉に、リノは沈黙して俯いた。なんだかモジモジしているのは気のせいではないだろう。
「?」
 アルトは不思議そうな声を出すが、アルフレッドは確信したようで、手をぽむんと叩く。
「あ……。もしかして、バレてる?」
 すると、顔を真っ赤にしたリノが頷く。アルフレッドの言っている意味も、二人がしていたことがどういったことかも、彼はわかっているようだ。
「お二人ってそういうご関係だったんですね……」
 その言葉にびっくりしたアルトが、慌ててリノの肩に手をかけた。
「違うっ。魔力供給してもらってるだけ!」
 その言葉に一瞬、アルフレッドは辛そうに顔を歪めた。自分と身体を重ねるのは、魔力のためだけ。そう言われているようなものだ。彼にとってはショックでしかない。
 が、すぐにそれをやめて、まぁまぁ、とアルトとリノを引き離す。
「ご飯食べよ? スープ冷えちゃう」
 アルフレッドは食卓に、何やら赤い具がたっぷりのサンドウィッチと、ベビーリーフのサラダ、ほわほわと湯気が立つスープを運び、アルトに席に着くよう促した。アルトはそれに従い、アルフレッドの向かいに座る。
 サンドウィッチやサラダ、スープの皿は、アルフレッドの好きなブランド『ティンクティンク』のものだ。ティンクティンクは植物モチーフが特徴だが、アルフレッドが特に好むのが、繊細な鈴蘭の装飾があしらわれたもので、今この家の食器はみな、鈴蘭モチーフの『ミュゲシリーズ』である。
「さ、食べて食べて」
「いただきます」
 アルトが手を合わせて食べ始めた。それを見て、アルフレッドとリノもいただきますと言い、食事を始める。
 途端に、サンドウィッチを食べていたアルトが大きく咳き込んだ。隣にいたリノが心配そうに背中を撫でると、涙目になったアルトが目の前の弟を恨めしそうに睨みつける。
「今日は激辛かよ……」
「美味しい?」
 にこっと爽やかに笑う、整った顔の弟を、心底殴りたいと思ったアルトに罪はないだろう。
 アルトは拳を握りしめ、声を振り絞って、不味い、と言い、水をあおった。
「俺は辛いの駄目なんだってば……。チリソース入れないでくれよ……」
 涙声で訴える兄に、弟は不思議そうな声で返す。
「チリソース入れなかったら、味なくなるけどいいの?」
「どうしてそんな極端な味のサンドウィッチを作った?!」
 吼えるアルトに、アルフレッドが胸を張る。
「この前、スープがしょっぱすぎると言われたので、味をチリソースに一任しましたっ」
 馬鹿だコイツ。
 アルトが肩を落とした。
 そのやり取りを見ていたリノはふむふむと頷くと、手に持っていたサンドウィッチにかぶりついた。
「ちょ、馬鹿!」
 焦るアルトを余所に、リノは美味しそうに咀嚼する。
「なるほどー。辛くて美味しいですねえ」
 その言葉に、アルトどころか、アルフレッドまでもが眉をひそめた。
「あの、僕、自分の料理が結構ハチャメチャな自覚はあるんだけど……。美味し、い……?」
 その言葉にアルトは立ち上がり、無言で弟のみぞおちにグーを入れた。そして席に戻り、水が入ったコップを持って隣にいるリノを覗き込んだ。
「大丈夫か? 辛くないか? 不味いよな? 無理しないでいいぞ?」
 畳み掛けるように言うアルトに、リノはキョトンとして言った。
「いえ、無理してないですよ」
 けろっとした顔のリノが無理をしていないと確信した双子は、顔を見合わせる。
 先に動いたのはアルフレッドだった。彼はリノを抱きしめると、頬ずりして猫なで声を出す。アルトに嫉妬してもらえればいいなんて邪心を、ほんの少しだけ抱いて。
「んもー! この子かわいい! やっぱり僕のお姫さまってことにする! 姫ー! いい子だねー!」
 リノはくすぐったそうにそれを受け入れると、えへへへへ、と嬉しそうに笑う。
 アルトはその光景を見て、なぜだか心に温かなもの……前に感じていた、愛という感情に似たもの……を感じて、少しだけ微笑んだ。
 アルフレッドの心中など、知らないままで。


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