【小説】オリジナル/ブルプリ/Stage01『出会い』


+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+

>>【小説】オリジナル/ブルプリ/Stage02『アルトとアルフレッド』
+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+

「やったか?」
 紫の髪の幼い少年……アルトが、青い髪の長身の少年……アルフレッドの元に駆けつけた。
 月の光を閉じ込めたかのような、金色の二対の瞳は、視線を交わらせる。
「……やったね」
 アルフレッドは額の汗を拭いながら、紅い『魔宝石(マギカジェム)』の嵌め込まれたデスサイズを降ろす。
 色やデザインこそ違えど、二人は『魔導服』と呼ばれるものを着ていて、そこから、『魔法使い(マーリン)』ということが見てとれた。
 アルトが、辺りをガサゴソと探す。
 彼ら魔法使いは『魔獣』と呼ばれている、いわゆるモンスターを狩る専門職だ。今も、その個体を一体狩ったばかりだった。
「で、あの魔獣、魔宝石どこに落とした?」
 デスサイズをしまっていたアルフレッドは、言われて気づいたようだ。
「え? あ? どこだろ?」
「アイツ、かなり手強かったから魔宝石もきっと良いやつだぞ。キチンと回収しないとな」
 そんなふうに言う彼に、アルフレッドは疑問を投げかける。
「アルトくん、欲しいものでもあるの?」
 魔法使いは魔宝石をマーリンズギルドで換金できる。そして、その金で生活している魔法使いも少なくない。この二人もそうだった。
「『デザー・ミルフェ』の新刊が出た」
 デザー・ミルフェは、アルトがずっと追っているSF連載小説の作者だ。男性ということは公表されているが、その素性は謎に包まれている。何でも一説によれば、彼の本を扱う出版社でも彼に直接会える人物は決まっていて、それ以外の人物に会う権利はないらしい。
 売れっ子作家だからそんな無茶ぶりができるのだろうが、いけ好かないやつだ、とアルフレッドはつねづね思っていた。多分、アルトが他人に興味を示すのが、限りなく嫌なのだ。
 自分の方を見ないで石を探すアルトに、アルフレッドは少なからずムッとした。
「僕と、デザー・ミルフェの新刊、どっちの方が好きなのさ」
 その言葉に、アルトが振り向いた。比べる相手は本だ。それとアルフレッドを比べるのはどう考えてもおかしい。いくら好きな作家の新刊といえども、それとアルフレッドは比べられない。
 アルトはため息をついた。明らかに「馬鹿だなあ」と言いたげな顔をしている。
「それ、比べるものおかしくね? だいたい、」
 アルトの口が動きかけたときに、嫉妬深い少年はアルトの後ろに黒く蠢くものを見た。それは、さっき倒したはずの魔獣だった。
 アルフレッドはデスサイズを出そうとするが、咄嗟のことで詠唱が遅れてしまい、素早く戦闘態勢に入ることができない。彼はこんな森の中でデスサイズをしまった、先程の自分がどんなに愚かだったかと後悔した。
「アルトっ! 後ろ――!」
「え?」
 アルトも気づいたようだったが、魔獣は口を大きく開けて、彼を飲み込もうとするところだった。
 アルトは頭をかばう仕草をして、ぎゅっと目をつむる。
 刹那。
 爆発音がして、魔獣が溶けた。アルトとアルフレッドがあっけにとられていると、
「よかった、間に合いましたね」
 その後ろから出てきた、恐ろしいくらいの美少女がニコリと笑う。ビリジアンブルーの髪と正反対の、真紅の服も魔導服だ。魔法使いであることは間違いない。
「あ、ああ。助かった。ありがとう」
 近づく少女に、アルトが礼を言う。アルフレッドもアルトに近づいてきて、自分よりずいぶん小さいアルトをぎゅっと抱きしめて何度も頭を撫で、頬ずりした。
「アルトぉ……。よかったよぉ……」
「アル、ちょっと待……、苦し……」
 そんなふうに言うアルトを離さず、アルフレッドは少女に礼を言う。
「兄を助けてくれてありがとう。街まで一緒に来てくれる? お礼したいからさ。……えーっと?」
 えーっと、が名前を尋ねるものだと気づいた少女は、こくんと頷いて自分の胸に手を当てる。
「訳あって本名はあかせませんが、リノとお呼びください」
 リノちゃんね。アルフレッドは復唱すると、自分たちの紹介を始める。
「僕はアルフレッド・クリス・レインスター。こっちは双子の兄のアルト・ヴァレル・レインスター。よろしくね」
 リノは、ん?と首を傾げた。
 兄。に、しては幼い……と思ったのだろう。
「ん? ああ、アルトくんが小さいからビックリしてるのかな? 『バヨナ病』なんだ、この子」
 バヨナ病。
 原因も治療法も不明の病気で、心身の成長が止まる奇病だ。だが、命に関わる症状は出ないため、研究も進んでいない。もっとも、自然治癒する確率も低くはないのだが。
「バヨナですか。これは失礼しました」
 その謝罪を聞きながら、アルトはなんとかアルフレッドの手から逃れ、乱れた髪の毛を整えた。元々ぴょこんと生えている、いわゆるアホ毛も直そうとするが、何度撫でつけても直らず、それは諦めてぴょこぴょこさせたままにしておく。
 アルフレッドが、リノをまじまじと見た。ビリジアンブルーの髪はかなり長く、ふわふわしていそうだ。キラキラと光る、桜色の瞳とよく合っている。
 彼女は亜人である『アゼル人』なのだろう。猫のような、狐のような耳がより一層可愛らしく見える。
「しかし、キミ、かわいいねー。すっごい好みなんだけど。うん、かわいい。僕のお姫さまになって?」
 そのハラスメントまがいな(いや、ハラスメントか)言葉に、リノはぽかんとする。アルフレッドも、流石にこの言葉はまずかったかと思い、取り繕うとするが、その前に彼女から言い放たれた言葉は衝撃そのものだった。
「あの、ボク……。男です」
「はい? 今なんて?」
 仲良く声を揃えて、なんともマヌケな訊きかたをする兄弟。しかし、アルフレッドは行動が早く、彼女のその部分に手を当てた。
「きゃっ!」
「あ、ホントだ」
 彼が言うなり、アルトは力いっぱい弟をはたく。そうして、ジャンプして弟の頭に手をやると、無理やりそのまま押し下げた。
「スミマセンスミマセン! ホント、弟がごめんな! ほら、てめえも謝れ!」
「痛いです」
「痛いですじゃねえよ! ごめんなさいだろうが!」
「触っちゃってごめんなさい」
 二人のやり取りに、思わずリノがころころと笑う。
「ね? 男だったでしょ?」
 この子、寛大だ……。
 兄弟は同時に思い、(特に兄は)彼の心の広さに感謝した。
 が、その時、またあの魔獣と思われる個体が大きく膨らんで蠢く。
「まだ倒せてない?!」
 兄弟はすぐに気づいたが、一番近くにいるリノが出遅れた。このままでは彼を巻き添えにする。
 そう思った時、リノのペンダント……『レベル測定器(マジュプリカ)』が光を放って実体化し、『チャクトワーフト』と呼ばれる生き物になった。そうして、その異形は、そのままリノの後ろに飛んでいく。
『さようなら、リノ。今までありがとう。楽しかったですよ』
 チャクトワーフトはそう言うと、魔獣を空高くに連れて、そこで爆発した。
「キオネイナーっ!」
 耳をつんざくような爆音と熱い爆風の中、リノは叫びながら、爆心地へ手を伸ばそうとした。アルフレッドはアルトとリノに覆いかぶさってその場でしゃがみ、爆発からできるだけ身を守る。

 ころん。

 爆発が収まり、空から降ってきたのは、黒い、大きな魔宝石だった。魔獣の核である魔宝石がむき出しになるということは、魔獣の死を意味している。
 周囲の安全を確認して、アルフレッドは二人を開放する。ふと彼がリノの姿を見ると、リノの服は魔導服ではなくなっていた。
「う、そ……」
 リノが呆然として呟いた。
 魔法使いはチャクトワーフトと『願いを叶えてもらう代わりに戦う』ことを誓約してなれる存在だ。誰しもがなれるわけではない。
 そして、その願いは、チャクトワーフトのレベルが100になったときに、チャクトワーフトの存在と引き換えに叶えてもらえるもの。つまり。
「願い、叶ってないんじゃ……?」
 アルトが心配そうに訊く。リノはこくん、と頷いた。どうやら、彼の願いが叶っていないことは、彼にはわかったらしかった。
 しばらく沈黙が場を支配した。しかし、ここは安全ではない。アルフレッドは魔宝石を拾い上げて、術式を作った。
「とりあえず、安全なところに行こう。僕たちの家に案内するよ。おいで」

 **********

 兄弟の家と言って連れられたそこは異世界だった。瓶の中に循環する機能を作ったような感じ、とでも言えばいいだろうか。彼らはそこを『ビオトープ』と呼んでいる。
 ビオトープの中に、赤い屋根の家があり、そこが彼らの住まいだった。
「で、どうする? ただの少年……しかもあんなか弱そうな子、街まで送ってはいおしまい、で済ませられないよね?」
 リノをリビングのテーブルにつかせ、お茶を出してもてなすていをとり、双子の兄弟はキッチンでボソボソと話し合う。
「同感だ。見たとこ、バヨナ病の俺より幼いんだから、10歳行ってねえだろ。あんな子に魔法使いやらせる親もどうにかしてるけど、親元まで連れてったほうがいいな」
 二人は頷きあい、それから何食わぬ顔をしてお茶と、このビオトープの名産品『ショコラの実』を持って、リビングに戻った。
「わあっ、美味しそう! これ、頂いていいんですか?」
 明るく振る舞うリノに、アルフレッドは思わず目を背けた。アルトは困った顔をしながら笑い、ああ。と言って果実を勧める。
「遠慮しないで食えよ。栄養にはならないけど、美味いよ」
「え? カロリーにならないってことですか?」
 リノの問いに、アルトがそう。と答える。
「ここ、異次元だろ? 身体の作りをビオトープ基準に作り変えないと、なにも栄養にならないんだ」
 リノはそう言われて、ショコラの実に歯を立てた。サクッと音がしたかと思えば、かじった場所から、中に詰まっていた、溶けたチョコレイトのような果汁がとろける。トロリとこぼれそうになったそれを、リノは上を向いて受け止めた。
「えへへー。これがカロリーゼロなんて嬉しいなあ! ボク、ダイエット中なんですよね」
 アルフレッドは意を決したのか、リノにこう切り出す。
「あのね……。キミを、親御さんのところまで送り届けようと思う」
 リノは目を見開いて、それを聞いた。彼の瞳は、張り詰めていた。
「今の君は魔法使いじゃなく非力だ。だから、親元に帰ったほうがいい。一度関わったんだ。街までじゃなく、ちゃんとお家まで送るよ。だから……」
「イヤです!」
 アルフレッドの声を遮って、リノは全力で否定した。それは絶叫に近く、彼の身体の大きさに似つかわしくないくらいの大声だった。
「イヤ! イヤです! あんなところに帰りたくない!」
 ポロポロと涙をこぼし、彼は続ける。
「ボクにお礼してくださると言うのなら、お願いです! しばらくでいい、お側に置いてください! なんでもします! 皿洗いだって、お掃除だって、お洗濯だって、なんでも!」
 アルトとアルフレッドが顔を見合わせた。リノの形相は険しい。これはただことではない。
「……そこまで言うなら、わかった」
 アルトが口を開く。
「ただ、自分のことは自分でしてもらう。それから、俺たちの生活にはあまり関わらないでほしい。アル。それでいいだろ?」
 しょうがないなあ、アルトくんの頼みなら。
 アルフレッドはそう言って、優しく目を細めた。
「これからよろしくね」
 二人は手をリノに差し出す。リノはそれぞれの手を両手で包み、ありがとうございます、とお礼を言った。
「……じゃあ、さっさと身体の方組み替えなきゃな」
 アルトが魔導書を取り出す。
 すると、リノが変なことを訊いた。
「触媒はこの実ですか?」
「ん? まあ、今食ったんだからそうだけど」
 なら、自分でできます。
 彼はそう言って、手を回し、空間から杖を取り出すと、術式を展開した。双子は顔を見合わせる。
 魔法使いがありとあらゆる魔法を使えるのは、チャクトワーフトとの契約時に、すべての魔法の術式を脳に書き込まれるからだ。そしてそれは、チャクトワーフトとの契約が切れたときに脳から消されると聞いた。
 まだ魔法使いなのか? そんな筈はない。チャクトワーフトは消滅したし、彼の魔導服も解けていた。
「なんで?」
 双子は仲良く、リノに訊いた。
「あ。ボク、特殊体質なので、魔法使えるんですよね」
 彼はそう言ってニコッと笑う。
「願いは叶わなくなっちゃいましたけど、これなら魔獣狩りのお役にも立てますし。言質取りましたから、これからよろしくお願いしますね!」
「ちゃっかりしてるなあ……」
 双子はそう言って、ガックリと肩を落とした。


+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+

>>【小説】オリジナル/ブルプリ/Stage02『アルトとアルフレッド』