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「あっ……、ぅ、んっ」
今日も僕は兄を抱いている。
頑固なほどにまっすぐな、胸の辺りまで伸びた濃柴の髪がベッドに散らばって、自分の犯した罪の大きさを物語っている。
僕は罪人だ。
自分の片割れを、どうしようもなく愛してしまった。
「アルト……」
名を呼び、頬に口づける。
肌の弱い彼にいつも塗ってあげているボディバターの、シトラスの匂いが、僕の鼻孔をくすぐった。
「アルフレッド……もっと、して」
大きめな狐目を細めて、優しく笑う兄を、何度愛しいと思ったか。
「これ以上したら、自分を抑えきれなくなっちゃう」
僕がそう言うと、彼は心底おかしそうにクスクスと笑う。
「かまわないのに」
アルトは腕を伸ばし、僕の首筋に抱きついた。
「アルフレッド。だいすき」
彼には過去がない。
すべての過去を消し去って、僕がここまで連れてきた。
そして、未来も僕が奪うのだろう。
「アルト……」
首筋を食むようにきつく口づける。僕のものだ、と印をつける。
それすら、兄には甘く感じるのだろう。のけぞり、かすかに声を上げる。
堪らなくなって、僕は彼の胸のほうに舌を這わせた。
「アルフレッドは……ちゅー、してくれない……よね」
家から一歩も出してないはずなのに、どこから覚えてきた知識なのか。
「悪い子だね。どこから覚えてきたの、そんなの」
彼は答えず、ただかぶりを振った。
僕は彼の身体を離し、切ない表情の兄を見下ろす。
「言わなければ、続きはなしだよ」
その言葉に、アルトは不満をあらわにし、目に涙を溜めた。
「やだ……してもらう……」
「自分の願いを叶えてもらいたいなら、相手の願いも叶えなきゃだよね? 僕の質問に答えて。どこでそんなの覚えたの?」
彼の瞳から落ちる涙を拭おうと、彼の顔に手を近づけると、彼はビクッと震えて、自分の頭を抱えた。
「ゴメンナサイ……! ちがうの、そとにはでてない……!」
僕に殴られると思ったのだろうか。そんなこと、したことないのに。
僕はそれが悲しくて、彼に触れることを諦めた。
「外に出てないならいいよ。違う、ただ知りたかったんだ。それだけ」
身なりを正しながら、ため息をつく。
「とうさんがね」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、彼は細く、消え入りそうな声で話し始めた。
「むかし、とうさんが、オレにせがんでた……きが、したから」
事実だ。
あの男は、彼を暴力で従わせて、自分の慰み者にしていたから。
だけど。
「その記憶はいらないよ、アルト」
僕はアルトの頭を掴んだ。多分、今の僕はひどい顔をしていると思う。
「消してしまおう、何度でも」
「アルフレッド……」
何度でもやり直そう。
「キミを困らせるその記憶は、何度でも消してあげる」
「ああそうだ、思いだした。お前はいつもそうやって、オレを、」
その記憶は、キミにはいらない。
「『メモリーイレース』レベル3」
術式を終えた手が光を発し、彼の記憶と意識を奪う。
「……」
頬を伝う感触で、僕は自分が泣いていることに気づいた。
「キミを僕のモノにするためだったら、僕は」
この身が裂けても構わない。
ああ、でも。
「辛いな……」
いつまでこうすれば、キミは僕のモノになってくれるんだろうね。
渇きをごまかすかのように、僕はベッド脇に置いておいた水を煽った。
それは、まだ彼(リノ)と出会う前の、忘れ去りたい記憶――。
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